第9話 進化したスキルで森をサクサク攻略



 いにしえの聖女である、佐久平さくだいら 愛美さんから、魔神の鞄トリック・バッグと、聖女の力を継承した。


 結果、私の聖女スキルは進化した。


~~~~~~

結界lv10

→高速、広範囲、高硬度、多重展開、長時間展開、形態変化可能な結界


治癒lv10

→老衰以外の全て病気、全てのケガの治癒


浄化lv10

→全ての有害物質、状態異常、鑑定可能な呪いの浄化

~~~~~~


 聖女スキルのレベルが一気に7つも上がった。

 なぜこんな急に、一気にレベルが上がったのか?


 愛美さんが鍛え上げた聖女スキルの経験値を、私が受け継いだ形になったのではないだろうか。

 なんにせよ、愛美さんのおかげで、私は怪我や病気などに、一切怯えなくて良くなった。


 本当に、ありがとうございます、愛美さん。


 私はせめてものお礼ではないけど、愛美さんのいた部屋を掃除した。

 と言っても、アイテムボックスに、ゴミや放置された【もの】を放り込んだだけだけど。


 綺麗に掃除して、私は愛美さんの部屋を出た。


「みゃっ」


 私がお掃除してる間、ましろはこの部屋の外にズッと立っていた。

 恐らくだけど、魔物が来ないかどうか、見張っててくれたのだろう。


 ぴょんっ、とましろが魔神の鞄トリック・バッグのなかに入る。

 顔だけを、ぴょこっ、と出す。


「そこがお気に入りでしゅか?」

「うーみゃっ!」


 成猫を持っているというのに、全然重さを感じなかった。

 魔神の鞄トリック・バッグのおかげだろう。


「よし……いよいよ、外でしゅね」


 私はダンジョンの入り口までやってきた。

 そこから差し込むのは……日の光。


「ほわ……まぶしいでしゅ……」

「うーみゃ……」


 暗いところに長時間いたせいか、まぶしくて前が見えない。

 でも……次第に視界がクリアになっていく。


「森……」


 目の前にはうっそうと生い茂る木々が、どこまで広がっている。

 そういえば、バカ王子が、ここは奈落の森アビス・ウッドとか言っていたっけ。


「ひとまじゅ、森の脱出をめざしましゅよ?」

「みっ!」


 ぴょんっ、とましろが鞄から出る。


「ふー! しゃー!」

「どーしたの?」

「みっ!」


 ましろが尻尾で前方を指す。

 敵……?


 でも魔物の陰はない。でも……。


「なに……これ? 紫色の……霧?」

「しゃー!」


 木々が生えている場所には、紫色の霧のようなものが充満していた。

 ましろがこれだけ警戒してるということは、多分、体に悪いものなのだろう。そんな色してるし。


 気になる。


「【鑑定】!」


~~~~~~

「瘴気」

→人体に有害なガス。長時間吸い込んでいると死を招く。高濃度の瘴気は、魔物の発生原因となる

~~~~~~


「しょーき……。あぶないとこだったでしゅ」

「みゃ?」


 な? とまたましろが得意げな顔をする。

 愛猫が危険を知らせてくれたおかげで、死なずに済んだ。


「ありがとぉ……ましろたん」

「みゃ~ん♡」


 ましろたんの喉元をこちょこちょすると、気持ちよさそうに目を細める。

 さて、と。


「さっそく……進化した聖女スキルの、出番でしゅね!」


 瘴気が有毒ガスであるならば、スキルで浄化できるはずだ。

 スキルの使い方については、すでに理解していた。


 スキルを使おうとした瞬間、使い方が、頭の中に直接浮かんできたのだ。

 手足を動かすのと同様に、特に意識せず……私は力を使える。


「【浄化】」


 カッ……!

 

「み゛~~~~~~~~~~!」


 ましろが悲鳴を上げる。それくらい、強い光が私の手から発せられていた。

 どこぞの、「波ぁ……!」みたいな、強烈な光が周囲を包みこむ。


 やがて光が収まると……毒ガスは綺麗さっぱり消えていた。


「成功でしゅっ」

「しゃー!」


 ましろが歯をむいていたいた。多分急にやったから、びっくりしてしまったんだろう。


「ごめんね。びっくりさせちゃって」

「みっ」


 まあいいけどね、とばかりに、ため息をつくましろ。


「で、どうかな? ましろたん。進めそう?」


 すんすん、とましろが鼻を鳴らす。


「うーみゃっ!」


 ましろがうなずいた。

 よし。これで進めそう。


「いこっか」

「うみゃっ!」


 ぴょんっ、とましろが鞄の中に入って、顔を出す。

 ぴんぴん……とおひげが動く。多分、スキル猫のひげを発動させているのだろう。


 森の中をてくてくと歩いてると、ましろが鞄から飛び降りて、尻尾で道を指してくれる。

 ダンジョンのときと同じだ。

 こっちに行けば良いと、最短ルートを教えてくれてるのだろう。


 先代あいみさんから受け継いだ聖女スキル、そして何より、ましろの存在が、私に安心感を与えてる。

 こんな暗くて、恐ろしい森の中でも、私は恐怖心を抱いていなかった。


 それに……。


「み!」


 しゅぱんっ!

 ましろがスキル、飛爪ひそうを発動。

 目の前を生い茂っている草木を、すっぱーん! と刈ってくれる。


 だから道はとても歩きやすかった。


「結界のおかげで、虫しゃんに刺さることもないね」

「うみゃあ」


 結界スキルを、私は常に体の周りに展開してる。

 レベル10となり、長時間展開が可能になったのだ。


 結界を出していても全然疲れてこない。

 だから、私は結界を出しっぱにしてる。


 これのおかげで、虫に刺されることは一切なくなった。

 それに……


「ブブブブブゥウウウウウウウウウウウン!」


 がきぃいん!!


「魔物でしゅね」


 巨大蜂が私を刺し殺そうと、高速で飛んできた。

 でも結界のおかげで、死角から攻撃されても、へいちゃら。


 ましろは悠々と鞄から飛び出て……。


「うみゃん!」


 くると回転する。

 ズバンッ……!


 ましろの攻撃スキル、神威鉄爪オリハルコン・クロー

 人間くらいの巨大な蜂も、一瞬で三枚おろししていた。


 相手は魚じゃないけども。


「【鑑定】」


~~~~~~

女王蜂クイーン・ビー

【レベル】100

人間サイズの巨大バチ。巨象すら一瞬で麻痺させる、麻痺毒を持っている。

~~~~~~


『条件を達成しました』』

能力アビリティ麻痺毒パラライズ】を取得しました』


 ネコババスキルが発動し、私は新たな能力アビリティを覚えたようだ。


~~~~~~

麻痺毒パラライズ

→触れた相手を対象に、麻痺の毒を付与する。持続時間は、使用者のレベルに依存する。また、任意で麻痺状態を解除可能

~~~~~~


「レベル100……外の魔物も、普通に強いでしゅ……」


 正直、あのダンジョンのレベルが高いだけだと思っていた。

 けど……ダンジョンの外にいる魔物でも、普通にレベルが三桁とかいっていて、油断できない。


 女王蜂を倒したことで、私のレベルは121になった。


「聖女スキルがあってたしゅかった……」

「うみゃ~!」


 てしてしてし、とましろが抗議するように、前足で私の体を叩く。


「そうだね、ましろたんがいるおかげで、安全に旅できてましゅ」

「にゅふん」


 それでいいんだよ、とばかりに、ましろが満足げに鼻を鳴らす。

 実際、私はか弱い幼女。敵からの攻撃をスキルで防ぐことはできても、こちらから反撃することはできない。


 ましろという、最強の用心棒が、側に居てくれて本当に良かった。

 

「よし。この調子で、どんどん進んでこー!」

「みゃー!」


 木々に覆われ、真っ暗な森の中を、私は外に向けて歩き出す。

 てくてく歩いていても、全然疲れてこない。

 ましろが草刈りをしてくれるおかげが大きい。

 この子がいなかった普通に詰んでたな……ほんと……。


 そんな風に順調に進んでいっていた、そのときだ。


「きゃああああああああああ!」


 ……どこからか、女性の悲鳴が聞こえてきたのだった。

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