第7話 トラップを全て回避しサクサク進む



 私は愛猫ましろと供に、通路を進んでいく。

 どうやら、聖女を召喚する祭壇は、洞窟……というか、ダンジョン? の中にあるそうだった。


 ダンジョン。ネット小説や漫画でおなじみの、魔物が住み着く迷宮。

 迷宮とは、文字通り人を迷わせる場所。

 しかし……。


「みっ!」


 分かれ道にて、ましろが右側を尻尾で指す。


「右が正しい道なんでしゅか?」

「みっ!」こくん。


 右に進む。次にまた分かれ道。


「みゅ!」

「左ね」

「み!」

「右ね」


 ましろの持つスキル、猫のひげのおかげで、私はすいすいサクサクと迷宮を進んで行ってる。

 

 適当に指してないことは確かだ。

 一度も行き止まりにも出会っていないし、引き返すこともなければ、同じ場所をグルグルすることもない。


「しゅごい……ましろたん……」

「みゃ?」


 な? といつも通り、どや顔をしてくるましろ。

 ぴたっ。


「みー!」

「どうしたの?」

「みゃうっ!」


 ぴょんっ、とましろがジャンプして、向こう側に着地する。

 どういうこと……?


「みっ!」


 尻尾でこいこい、とジェスチャーをする。

 行けば良いのかな……。


 がこんっ。


「え?」


 ばかっ、と床が……空いた。


「落とし穴ぁ……!?」

「みー!」


 落下を覚悟し、目をつむる私。

 だが……いつまで経っても、私が落ちることはない。


「はれ……?」


 恐る恐る目を開けると、目の前には、巨大な落とし穴があった。


「ま、ましろ……たん……」


 私は床に大の字になって寝てる。

 その襟首を、ましろが口でくわえていた。


 ぱっ、とましろが口を離す。


「まさか……私が落ちる前に、助けてくれたの?」

「みっ!」 


 ましろ……バステトの素早さの数値は、(※秘匿情報)だった。

 でもレベル∞なのだ。素早さも相当あるだろう。


 それこそ、私が落下する前に助けることくらい、お茶の子さいさいなんだろう。

 というか……多分ましろは、事前にトラップがあることを理解していたのだ。


 ぴょんっ、とジャンプして、それを教えてくれていたのだ。

 なのに、間抜けな私は落とし穴を踏んだ……。


「ごめんね、ましろたん。おしえてくれて、ありがとぉ」

「みゃーみっ!」


 落とし穴をぴょんっ、とまたぐ。

 私は穴を迂回して先に進む。


 その後もトラップがいくつかあったけど……。


「みゃー!」→落下トラップ。

「みー!」→スイッチ式の火炎放射器。

「うみゃみゃー!」→落とし穴2。


 とまあ、ましろが全部トラップの存在を、事前に教えてくれたので、一切引っかかることはなかった。


 進みながら、ふと、私は疑問に思う。


「ましろたん。なんか、トラップおおくないでしゅ?」

「みゃ?」


 だから? と尻尾を?にするましろ。かわいい。


「バカデカントたち、よく……無事に祭壇までたどり着けたな……って」


 正直、ましろが居なかったら、私は二桁回数は死んでいたと思う。

 あのバカ王子たちが、無事に奥まで、善くたどり着けたなって。


「みゃっ、うみゃみゃっ! みゃー!」

「え……? あ! あれ……まさか……出口!」


 遠くに、といっても目視できる範囲で、光が差し込んでいる。

 アレが出口なのだと、私は直感した。


 まだ祭壇から出発して、そんなに時間が経っていない(ように思える)。

 それなのに、もう迷宮をクリアした……。


「まさか……最短ルートだったの?」

「みっ!」


 なるほど……ましろは最短ルートを通っていた訳か。

 バカデカントたちは、時間がかかっても、安全なルートをたどってきたのだろう。


 それに、召喚の儀式は昔からやってみるみたいだったから、迷宮の地図もあったのかもしれない。

 ずるい……。


「じゃ……外に脱出を……」


 そのときだった。


『……って』


 私は、思わず足を止める。


『……ま、って……待って……おねがい……そこの……お嬢……さん』


「……なに、この声……? だれぇ……?」


 私は周囲を見渡す。

 近くで女の人の声が聞こえたような気がしたのだ。


「うみゃ?」


 どうした? 早くしろ、とばかりに、ましろが私のワンピースのすそをつまんで引っ張る。


「ごめん、なんか……声が聞こえたの」

「みゃみゃー?」

 

 疑いの目を向けてくるましろ。


『待って……おねがい……』

「ねえ……聞こえない? なんか……私に、待ってって」


 ちょうど、そう、この迷宮の壁から……。

 ひた、と私は壁に手をかざす。


 ……なんと表現したら良いのか、わからないけど、違和感があった。

 見た目は、ただの土むき出しの壁……。


 手で触れると、つるつるしてる……。


「! そうだ……手さわりが変でしゅ! まるで、ボールを撫でてるみたいに、つるつるでしゅ!」


 ましろが壁に近づく。


「うー、みゃ!」


 ましろがその場でくるんっ、と宙返りをする。

 ザンッ……! と壁に5本の線が走る。


 ましろのスキル、神威鉄爪オリハルコン・クロー

 神威鉄オリハルコンすら切り裂く爪が、迷宮の壁を切り裂く。


 ……すると、ただの壁だと思っていた場所に、突如として、横穴が出現したのだ。

 壁が壊れた、崩れたって感じがしない……。


「まさか……結界?」

「うみゅ」


 切った感触でわかったのだろう、ましろがうなずいてる。

 やっぱりそっか……。


「すごい、結界って、あんな風に見た目を代えて、入り口を塞ぐみたいなことできるんだ……」

「み?」


 ましろが私を見上げてくる。

 どうするのかと、言ってるのだろう。


「…………」


 この奥に何があるのかわからない。

 でも、誰かがいるのは確かだろう。私を……呼んでいた声の主が、いるのだろう。


 罠……の可能性は大いにある。

 正直、入るほうがリスク高い。……どうしよう。気にはなる。助けを求めてる感じがしたし。


 中で閉じ込められてる人がいるのかもしれない。

 でも見知らぬ他人を助ける義理なんてあるのかって言われると……。


「うみゃっ!」

「あ! ましろたんっ! ちょっと待って……!」


 ぐずぐずしてる私を置いて、ましろが先に中に入ってしまった。

 結界を張り、この場に残ることはできる。ましろは強いから、一匹でも帰ってくるだろう。


 でも……でも、ましろを一人で行かせて、何かがあったら大変だ。もし帰ってこなかった、私は耐えられない。


「待ってぇ……」


 私は走るましろを、後ろから追いかける。

 そんなに走らずに、私は……大きめのホールへと到着した。


「なに……ここ……?」


 ホールの中には、無数の、本が積まれていた。

 地面にはゴミが散乱しており、腐ってるのか……かなり異臭を感じる。


「うみゃーみゃ! みゃー!」


 ましろがこのゴミの群れの奥で、声を張り上げてる。

 ましろが何かを見つけたようだ。


 私はましろの元へと向かう。

 そこには……。


「ひっ……! が、骸骨……」


 人の、白骨死体があったのだ。

 大きさから、大人なのがわかる。

 死体は、小さな黒いバッグを抱きしめていた。


「ま……ましろたん。帰ろう」


 ましろは私の言葉を無視して、白骨死体へと近づく。

 てしっ、と死体を叩く。


 するとスゥ……と、死体から青白い何かが這い上がってきたのだ。


「ひ、人……ゆ、幽霊でしゅ!?」


 大人の女性の、幽霊が、そこにいたのだ。

 透明な肌に、黒髪、黒目の……女性。


『驚かせて、ごめんなさい。わたしは【佐久平さくだいら 愛実まなみ】と申します』

「さくだいら……まなみ? に、日本人でしゅか!?」


『! まさか……貴女も?』

「は、はい……貴女は、一体……?」


 すると幽霊……佐久平さくだいらさんは言う。


『わたしは、いにしえの時代、異世界から召喚され、ここに取り残された、聖女です』

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