第5話 強すぎる愛猫のおかげで私強くなる



 私、黒姫くろひめ 寧子やすこの飼い猫は、ただの猫ではなかった。


「バステト……?」


 表示されてる、ましろのステータスの中の、バステトの部分を、再度鑑定してみる。


~~~~~~

「バステト」

→月と豊穣を司る女神。太陽神の娘。

~~~~~~


 ……鑑定の内容を信じるなら、ましろは……神ということになる。


「あなた……神だったの?」

「みっ」


 肯定なのか、それとも否定なのか、わからない泣き声を発する。

 でも……ただの猫ではないのだろう。

 あまりにも、人間の言葉を理解しすぎている。


 それに……私はましろあが、あの巨大な魔物を一撃で屠った姿を見てしまった。

 猫です、と言われるより、神と言われた方が、納得できた。


「…………神さま、か」


 可愛がっていた猫が、実は、猫ではない別の何かだった。

 あの魔物を瞬殺し、血だらけになって帰ってきたましろを見ると、ちょっと……怖くなる。


「み~?」


 ましろが近づいてきて、私の膝の上に乗っかり、頬ずりしてくる。

 ……そうだ。社畜時代から、ましろはこんな感じだった。


 こちらが思い悩んでいるときでも、無遠慮に、近づいてきて、そして、甘えてくる。


「…………」


 正直、ましろが猫では内事実を、直ぐに受け入れられない。普通に、ちょっと、いや、だいぶ……怖い。


 でも……。


「君は、今も昔も、ましろたんでしゅ」


 何を今更、とばかりに、ましろが小首をかしげてる。

 この子は、確かに正体は神かも知れない。猫ではないかもしれない。


 でも、私の知ってる愛猫ましろだ。

 その事実は、変わらない。……だから、遠ざけるようなことは、しない。


 ましろを膝の上にのっけた状態で、よしよしする。


「ましろたん……ステータスはんぱいでしゅ……」


 レベル∞ってどういうことなのだろうか……?

 鑑定しても、レベル∞以上の情報が出てこないし。


 ∞って、数というより量な気がする。レベルに対して、使って良い表現なのだろうか……?


 レベルと言えば、もう一つ……というか、こっちが一番きになってる。


「なんで……私のレベル……あがってるんでしゅ……?」

「くぁ……」


 ましろはあくびをするばかりだ。

 この子、私の言ってること、理解してるだろうに……。

 説明するのがめんどくさいのか、そもそも、知らないから説明できないのか……。


~~~~~~

「レベル」

→強さを数値化したもの。魔物を倒す等で、経験値を貯めることで、レベルアップする

~~~~~~


 ステータスの、レベルの表記を鑑定した結果が、これだ。

 レベルアップのためには、魔物を倒し、経験値を貯める必要がある。


 けれど……私は魔物を倒していないのに、レベル1が91になっていた。


「いつの間に……魔物たおしてたんだろう……?」

「…………zzz」


 ましろが眠っていた。

 この子、かなりマイペースなのだ。まあ、猫だから。正体は猫では無いけども。


 魔物を倒し、経験値が入ると、レベルが上がる。

 レベルが上がった以上、経験値をどこかで、私が仕入れたことになる。


 どこで?

 どこから?


「…………zzz」


 考えられるのは、ましろだ。

 ましろはさっき、血だらけになって帰ってきた。あれが、魔物の血だと仮定しよう。


 ましろが魔物を倒しても、私に経験値が入る。

 だから、私がレベルアップした……?


 鑑定スキルは、対象となる物体に秘められた情報を、読み取ることができるスキルだ。

 こちらが感じたり、思ったりしたことにたいして、適切な答えを返してくれるスキルでは、ない。


 私の仮説があってるかどうか、答えてくれるものは、この場には居ない。

 ならば、検証して起きたい。ましろが魔物を倒せば、私のレベルが上がるかどうか。


 この世界、魔物がいる。死が地球よりも近い。命の価値が、向こうよりもかるい。

 こっちには知り合いが誰も居ない以上、自分の身は自分で守る必要がある。


 レベルを上げれば、それだけ、生存率が上がる。

 頼れる相棒が居はするし、呼んだら直ぐきてくれるけど、来れない時があるかもしれない。


 だから、自分のレベルも、上げられるならちゃんと上げておきたい。死にたくないから。

 ……二度も死んでたまるか。


「ましろたん。魔物を倒してきて」

「み?」


 なんで、とばかりに、ましろが首をかしげる。


「私の仮説があってるか、調べたいのでしゅ」

「み~?」


 え~みたいな顔をする。

 かと思ったら……。


「みゃー!」


 ぴゅっ、と洞窟の奥へと駆けていく。

 まったくもう、気まぐれなんだから。


 どこへ行くのかわからない。

 でも、一人で居るのは不安だったので、彼女の後を付けていく。


 すぐに、ましろに追いついた。


「グルアァアアアアアアアアアアア!」

「く、くま……しゃん……」


 め、目の前には……巨大なクマの魔物が二本足で立っていた。

 わ、わ……私の体が小さいこともあって……余計、クマが大きく見える。


 その場に、尻餅をついてしまう私。

 に、逃げないと……。


「グルゥアアアアアアアアアアアア!」


 クマが腕を振り上げて、振り下ろしてくる。

 鑑定も……結界も、使えなかった。使う余裕が無かったといってもいい。

 私はただその場から動けずにいる。


「みゃー!」


 ずばばっ!

 ボトボト……と、クマの肉が地面に落ちる。

 失った、クマの腕を見て……。

 ましろが、的の腕を切断したのだと気づいた。


「みゃ!」


 ましろの爪には、かすかに血が付いていた。

 まさか、あの子の小さな爪で、あんなでっかい魔物の腕を切り飛ばしたというの……?

 

「にゃふん」


 ましろが私を見て、えへんと胸を張る。

 だから……気づいていない。


「ぐ、グアァアアアアアアアア!」


 クマは、ましろという脅威を見てもなお、突っ込んでくる。

 このままじゃましろが!

 

「け、【結界】!」


 レベル3の結界スキルを、発動した。

 私の目の前に、無数の六角形が出現。

 それらが組み合わさり、私たちを包む、半球状ドームへと変化した。


 ガキィイイン!

 私の作った結界が、クマの斬撃を防いだ。

 で、できた……!


「みゃみゃみゃー!」


 ましろはクマに気づいたのか、きっ、とクマをにらみつけると、飛びかかる。


 くるんと、サマーソルトキック的要領で、縦回転する。

 ズバァアアン……!


 クマの体に、5つの線が走る。

 体がボトボト……と音を立てて崩れ落ちた。

「うみゃー!」


 ましろが急いで駆けてきて、私に飛びついてきた。 

 私の手や腕を、ぺろぺろと舐めてくる。


 ……もしかして、ケガしてないか確認してるのだろうか。


「大丈夫でしゅ……ましろたん。ケガは無いよ」

「みぃ~……」


 私は、ステータスを確認する。


~~~~~~

【名前】黒姫くろひめ 寧子やすこ

【種族】半神デミゴッド

【レベル】101

~~~~~~


 レベルが、10上昇していた。

 これで確定だ。


 私が戦わなくても、ましろが敵を倒すことで、私に何故か経験値が入るようだ。

 ……やっぱり、どうしてって気持ちは大きい。


 でも、現状では、そのどうしてという疑問に対する答えを、得ることができない。

 もう、今はそういうものだと理解しておこう。


 ましろが居れば、魔物に負けることが無い。

 魔物を倒してもらえれば、私も同時にレベルが上がる。

 私の結界は、あの魔物の攻撃をも防いだ。


 ならば……やることは、一つだ。


「ましろたん……行こう。森の外へ!」

「みゃー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る