第4話 一人の時間、山での安らぎ

時々、私はすべてを手放して山へ行く。誰もいない静かな場所で、ただひとりになる。その瞬間だけは、雑音から解放され、自分が自分でいられるような気がする。


朝早く山道を歩き、木々の間を抜けるたびに心が少しずつ軽くなるのを感じる。足元に積もった枯れ葉を踏む音や、遠くで鳥が鳴く声が、耳に優しく響く。普段の生活では、こういった音に心を向ける余裕がない。だけど、山の中では違う。自然の静けさが、自分の中のざわつきを少しずつ消していくようだった。


一人でいる時間は、本当に大切だと思う。誰の視線も、誰の言葉も気にせずに、自分の呼吸だけに集中することができる。その時間が、私の心を癒してくれる。子供の頃から「居場所」を探してきた私にとって、この山の静けさは一時的ではあるけれど、確かな安らぎを与えてくれる「居場所」の一つだ。


あるとき、山頂でぼんやりと座って空を眺めていると、自分の中で不思議な感覚が芽生えた。「なぜ私はこんなに必死に居場所を探しているのだろう?」という問いが浮かび、答えを考えるうちに気づいたのだ。私は、周りに振り回されるたびに「ここも違う」と感じ、自分を否定していた。でも本当は、外の環境ではなく、自分の内側に問題があったのかもしれない。


私が心の中で「ここでいいんだ」と思えれば、それが居場所になるのではないだろうか。山の静けさが教えてくれたのは、外の世界ではなく、自分自身を受け入れることの大切さだった。


もちろん、日常生活に戻れば、雑音や喧噪がまた私を包み込む。それでも、山で過ごすひとときは、自分にとっての「リセットボタン」のようなものだ。息が詰まるような日常の中で、ここに来ればまたやり直せると感じられる。そのことだけでも、心が軽くなる。


山でひとりの時間を過ごすと、静けさの中で聞こえるのは、自然の音だけではない。心の奥底で静かに囁く、自分自身の声が聞こえてくる。それは決して大きな声ではないけれど、日常の騒音の中では消えてしまう大切な声だ。その声に耳を傾けることが、今の私には必要なのだと思う。


私にとって山は、ただの場所ではない。心を整えるための「拠り所」だ。一人でいることの孤独感と、そこにある安らぎを同時に味わいながら、少しずつ自分を受け入れていけたらいいと思う。

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