プリーズ!サンタガール!

かいんでる

サンタじゃないよ?サンタガールだよ♪

「彼女が欲しいー!」


 聖夜に響き渡る二十五歳独身、彼女いない歴二十五年になる男の魂の叫び。


「サンタさーん! クリスマスプレゼントは彼女でお願いしまーす!」


 コンビニで買ったケーキ十個をヤケ食いしながら叫ぶ。

 ただひたすらに己の魂を解放する。


「ついでにシックスパック万歳のマッチョメーンにしてくださーい! そしたらモテるに違いなーいのでーす!」


 ケーキを食べながら発泡酒八本を飲んで欲望を叫ぶ。

 このまま不審者扱いされて警察のご厄介になるのも人生! と思考がどこかに飛んでいる。


「なーにが良い子にしてたらサンタが来るよだ! 俺の人生でサンタが来たことなんて一度もねぇぞぉー!」


 良い子にしてたらという所には触れず、とにかくサンタが来ない事のみを愚痴る。


「グスン……何もかも上手くいかない人生……」


 泣き上戸へシフトチェンジし泣き始めた。


「あん時さぁ〜なつこちゃんにプレゼントあげる所までは良かったんだよなぁ〜」


 突然思い出したのは中学生の記憶。


「プレゼント選びに失敗したんだよなぁ〜女の子にガンプラがウケないとはなぁ〜だからフラれたんだよなぁ〜」


 フラれた原因がガンプラのプレゼントではなく、そのセンスを持つ自分に原因があるとは微塵も思っていない。


「はぁ〜何か良い事ないかなぁ〜」


 発泡酒片手にちゃぶ台に突っ伏して泣いていると、安アパートの窓が派手に砕け散った。


「どぅわぁぁー! な、何だ何だ!」

「メリークリスマース! サンタガール登場ー!」

「誰だお前!」

「だからサンタガールつったじゃん」

「サンタって髭はやして丸々したおっさんだろ! お前ギャルじゃねえか! もうあれだよ! どこかのお店のコスプレじゃねえか!」

「だからぁ〜サンタじゃなくて〜サンタガールだよ♪ サンタギャルじゃないからね」


 ロングの茶髪に派手なネイル。

 超ミニに赤の網タイツ。

 世間一般のサンタのイメージとかけ離れているのは否めない。

 だが、めっちゃ可愛い。


「よーし解った! サンタって付くんならプレゼント寄こせ!」

「プレゼント欲しいの?」

「サンタはそれが仕事だろうが!」

「仕事? 違うよ?」

「はっ? 仕事じゃねえの?」

「仕事じゃないよ! みんなを幸せにしたいだけ!」


 酔って回らない頭でかんがえた。

 そして一つの答えに辿り着いた。

 と言うか、他に何か考えられる思考回路は無かった。


「じゃあプレゼントくれ」

「いいよ〜っと言いたい所だけど、君は良い子なの?」

「良い子に決まってる!」

「じゃあプレゼントあげるね♪」

「ちょろいな」


 何をもって良い子とするのか。

 実は今年が初出勤のサンタガール。

 良い子かどうかはどうでも良かった。


「君が欲しいのは……彼女とマッチョな肉体か」

「ちゃんと解ってんじゃん。すげぇな」

「この欲望……じゃなくて、プレゼントセンサーに、君の強烈な願いが飛んできたの」

「なんか……メルヘンじゃないな」

「いいじゃんいいじゃん! そのおかげで私に逢えたんだから♪」

「もう何でもいいわ。プレゼントくれ! はよくれ!」

「慌てないの♪ いま準備するね」

「準備?」

「トナちゃーん、カイちゃ〜ん、準備よろ〜」


 サンタガールが突き破った窓から、トナカイのヘアバンドを付けた黒服二人がダンボールを抱えて入ってくる。

 テキパキとダンボールから出した何かをセッティングしていく黒服のトナちゃんカイちゃん。


「完了しました」

「ありがと〜おっつ〜」


 そこに現れたのは、トレニング機器の数々。

 もはやトレーニングジム状態である。


「な……んだ……これ……」

「プレゼントだよ♪ これでマッチョメーンを目指してね♪」

「ちっがーう! 俺が欲しいのはそんなんじゃねぇー!」

「マッチョメーンになるんでしょ?」

「なるんじゃなくて! マッチョメーンにしてくれよ!」

「やだ〜ウケる〜♪ 魔法使いじゃないんだからぁ〜」

「……これ、冗談じゃなくてマジ? 本気と書いてマジってやつ?」

「そうだよ?」


 崩れ落ちて膝を付く男の頭をサンタガールが撫でる。


「まあいい……こんだけのマシーン揃えるにゃ大金が必要。豪華なプレゼントにゃ間違いない」

「でしょでしょ! やっぱ私って優秀だよねぇ〜♪」


 浮かれて陽気に飛び跳ねるサンタガールに男が問う。


「もう一つのプレゼントはどうした」

「もう一つ?」

「か、の、じ、ょ。彼女だよ!」

「あぁ〜それな」

「それな、じゃねえんだよ! 早く彼女プリーズ!」

「いやいや、流石に彼女はねぇ〜無理だよ♪」

「裏切られたぁー!」

「人聞き悪いなぁ〜。そのプレゼントは無理って解るっしょ? 人攫いとか人身売買はサンタ協会でやってないよ?」

「やだー! 彼女欲しいー! 欲しいー!」


 全力で床を転げ回る男にサンタガールが囁く。


「じゃあ〜……私が彼女になったげる♪」

「えっ、マジ? 本気と書いてマジ?」

「マジマジ♪」

「いいの?」

「いいよ〜♪」

「よっしゃー! 彼女が出来たー!」


 もはやサンタガールとかどうでもよかった。

 彼女が出来たことの方が大事だった。


「あっ、でもぉ〜……」

「でも?」

「サンタガール辞める訳にはいかないかなぁ〜って」

「辞めなくていいじゃん」

「いいの? 世界各国飛び回るから、家にはほとんど帰らないよ?」

「って事は……どういう事?」

「ほとんど会えないね♪」


 フリーズする男。

 生まれて初めての天国から地獄へと突き落とされる。


「そんなぁ〜そんなぁ〜」

「あっ、一つ良い方法があるよ♪」

「なになに!」

「一緒にサンタやらない?」

「はい?」

「私と一緒にサンタやろ♪ そしたら〜いっぱい会えるよ?」

「やる! サンタやる!」

「ほんと? 嬉しい〜♪」

「俺も嬉しい〜♪」

「じゃあ、早速だけど、協会行って登録しよ♪」

「よーし! 登録するぞぉー!」


 人手不足に悩むサンタ協会に、また一人、サンタガールに釣られた男が登録されるのであった。


「メリークリスマスだね♪」

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