第9話 清継復縁プロジェクト始動
「
後輩の
放課後になってから暫く時間が経ったというのに、未だに校舎に残っている俺達。多くの生徒が足早に
残響が止んでから俺は口を開く。
「あ、あり得ないだろ。あの恋花が俺にゾッコンだっただって?今の俺の扱いはプランクトンみたいなもんだ。あいつの視界にさえ映っていないぞ」
「いや本人に会って直接聞いてるんですから、間違いないですって。清継先輩、初詣の日は雨が降ってたんですよね。それで先輩は気を遣って傘を二本持って行ったそうじゃないですか。恋花先輩は清継先輩の優しさに悶絶していましたよ。そんな話を聞かされる私は胸焼けも良いところです」
水上の話は、恋花と一緒に行った初詣で実際にあった出来事だ。
当日はどう考えても誰もが傘を差すであろう降水量の雨だった。当然恋花が傘くらい持って来る事は予想出来たにも関わらず、俺は必要以上の気を遣って恋花の分の傘まで持って行ったんだ。
水上は本当に恋花の口から話を聞いたと言うのか?にわかには信じがたい。
「じゃあ、今の恋花の変わり様は何だって言うんだよ。水上、お前は怪談話をしているのか?夏にはまだ早いぞ」
「いやそれはこっちのセリフですよ。今脳内に世にも奇妙なBGM流れてますもん。一体何をしたらそこまで嫌われるって言うんですか」
俺にとっても水上にとっても、これはもはやちょっとしたホラー体験である。
俺と付き合っていたのは恋花の別人格説や、実は生き別れた双子だった可能性まで考えてしまうぞ。
恋花の様子がここまで変わるくらい、俺は何か傷付けるような事をしただろうか。
そこで、側で黙って話を聞いていた
「清継、まさかとは思うがお前…。
誰か溶接工を呼んで来てくれ。このアホの口が二度と開かないようにして欲しい。
「うわ先輩…、ケダモノですね。去勢して牢に入った方が良いんじゃないですか」
どうやら溶接工は2名必要なようだ。
「お前ら黙って聞いてれば好き放題言いやがって、俺にそんな度胸があると思うのか?」
「そうだな清継、悪い」
「その通りですね、言い過ぎましたすいません」
こいつら、息ぴったりで謝りと煽りを同時に返してくるぞ。
反省と言い訳を同時に述べるインフルエンサーの謝罪文みたいにタチが悪い。
しかし腹を立ててはみるが、実際に俺は恋花に触れる事が出来た試しが無いので度胸が無いのは間違いない。自身の心の
「それで清継先輩、実際のとこ振られた理由は何だったんですか」
「良い人過ぎて、つまらないとかなんとか」
「何ですかそれ」
「分かったら苦労しないよ。一体どうすりゃ良かったんだろうな」
俺は脱力して廊下の天井を
『良い人過ぎてつまんないんだもん』
そんな理由で納得出来るものか。俺は誰かの役に立てるのなら立ちたいし、傷付いた人がいるのなら迷わず手を差し伸ばせる優しい人間で在りたい。良い顔をしていたい。それが当たり前でいられる男になりたい。
恋花にとっても、圭吾や水上に対しても。
そんな事を考えながら、俺が天井のシミをぼんやり数えていると圭吾が口を開いた。
「良い人が駄目だったんなら、単純にその反対が向崎のタイプだったんじゃねえか?そっちに進化しようぜ」
「よし、俺はこれからDVヒモ男を目指す」
「先輩それは退化です」
間違いないですね。
でもそれじゃあ何が正解だと言うのだ。今更何をしたって遅いのは分かっているのだが、
俺は頭の中で解決しようのない思考をぐるぐると巡らせる。
恋花と過ごした最後の1ヶ月の事。俺はバイトに行く時間が多かった。でもそれは『良い人過ぎてつまらない』事とイコールではない。俺は恋花との別れ際に『俺の何が良く無かったんだ』と問いかけた。口に出来る不満ならその時言えば良かった筈だ。
暫くの間目を強く
「俺は振られた言葉の意味を今まで良く考えてみなかった。ただ、俺に魅力が無いんだと思ってた。でも何か他に理由があったのならそれを知りたい」
「理由が無かったらどうすんだよ。向崎の言った通りお前がつまらないだけだったらさ」
「それなら俺が恋花に見合うだけの良い男になれば済むことだ。俺は決めたぞ」
圭吾も水上も俺が言わんとしている事を察してか、あからさまに面倒くさそうな顔をしている。
だが俺には目標が出来たのだ。声を高らかに
「俺はこの一年間で振られた真の理由を探り、恋花と復縁する事をここに宣言する!良い人であるままに、あいつにリベンジするんだ!清継復縁プロジェクトの開始だ」
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