かぐや姫は帰りたい

雨宮 徹@n回目の殺人🍑

かぐや姫は帰りたい

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。ある日、お爺さんが竹林に行くと、光り輝く竹がありました。あまりの美しさに近寄ると、そこには小さく可愛らしい少女がいました。彼女の名はかぐや姫といいました。月に住んでいる彼女は、竹型宇宙船で飛行中に燃料切れになり、地球に不時着したのでした。



「お爺さん、私はかぐや姫と言います。ここに燃料になるものはありませんか?」



 かぐや姫の正体を知らないお爺さんは「薪がある」と言いましたが、宇宙船は薪で飛ぶような構造ではありませんでした。地球文明の遅れに苛立ったかぐや姫は、心の中で舌打ちをしました。しかし、怒ったところで月に帰ることはできません。かぐや姫は、しかたなくお爺さんのもとでお世話になることにしました。



「お爺さん、か弱い私を育ててください」



 かぐや姫の上目遣いに、お爺さんは「喜んで」と即答しました。かぐや姫は「チョロいな」と思いましたが、態度に出すことはやめました。そこまで、愚かではありませんでした。


**


 数ヶ月すると、かぐや姫はすくすくと育ち、絶世の美女になりました。「美しい娘がいる」という噂は瞬く間に広がり、都の人々が次々と求婚しました。しかし、かぐや姫には月に婚約者がいます。それに、結婚したら一生を遅れた文明の中で過ごさなくてはなりません。困ったかぐや姫は、次々と無理難題を要求しました。そして、翻弄されている人々を見て「地球人はなんと愚かなのかしら」と笑いが止まりませんでした。



 かぐや姫の美しさは帝のもとにも届き、かぐや姫を我がものにしようと考えました。そこで、素敵な和歌を贈り気を引こうとしましたが、うまくいきません。かぐや姫は、和歌の書かれた紙をくず籠に入れました。しかし、それを見つけたお婆さんは「帝のお嫁になりなさい」と、嫁入り道具を準備し始めました。月には嫁入り道具の文化はありません。かぐや姫がお婆さんに訊ねると「桐箪笥きりだんすや着物を持っていくのよ」と説明してくれました。


**


 帝のお嫁になるまであと数日になった時、たけのこ型の通信機に連絡がありました。それは、婚約者からでした。「明日、迎えに行くよ」と。



「これで、帝と結婚せずに済むわね」



 かぐや姫は一安心しました。しかし、会話を聞いていたお爺さんは帝に通報しました。帝に恩を売りたかったのです。かぐや姫は、お爺さんの行動に腹が立ちました。



「でも、関係ないわ。月の技術を地球人に思い知らせるいい機会ね」



 翌日、帝はかぐや姫のもとに精鋭部隊を送り込みました。皆、弓矢の達人です。



「月の住人なんて、追っ払ってやる」と意気込んでいます。



 そこへ竹型宇宙船がやって来ました。達人たちは矢を放ちます。しかし、宇宙船の出す不思議な電波により、すべて防がれてしまいます。



「そんな馬鹿な!」「とても太刀打ちできない」と大騒ぎ。



 婚約者が宇宙船から降りて来ると、かぐや姫をエスコートしました。



「地球のみなさん、さようなら」



 それだけ言うと、かぐや姫は宇宙船に乗り込みました。



「かぐや姫、待ってくれ!」と、帝は叫びますが、かぐや姫は無視します。



「すまないね、迎えに来るのが遅くなって」



「もう、危なく地球人と結婚させられるところだったわ」かぐや姫は口を尖らせながら言いました。



「終わりよければすべてよしだよ」



「そうかもね。そうだ、素敵な嫁入り道具を見つけたの!」



「嫁入り道具?」婚約者は首を傾げました。



「簡単に言うと、お嫁さんが物を持っていく習慣よ」と、かぐや姫は自信満々に説明しました。



 婚約者は笑いました。



「地球人は奇妙な文化を持っているんだね。それで、君は何を持ってくるつもりなんだい?」



「もちろんこれよ」かぐや姫は、窓越しに美しい青い星を指差しました。



 婚約者は驚きました。



「地球そのものを?」



「ええ、だって物置と言うからには大きい方がいいでしょ?」かぐや姫は満足げに微笑みました。



「君らしいね。じゃあ、持って帰ろう」



 そして二人は宇宙船に乗り込み、地球を「嫁入り道具」として月に持ち帰ったのでした。

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