第3話 獣族の都
謁見を終えた僕はミカの案内で
「外にいる間はこれをつけておいてね」
ミカはそういうと僕に三日月のペンダントを僕にかけた。
「これは何?」
僕は銀のペンダントをいじりながら、ミカに尋ねた。
「それね、お守りのようなものかな。外にいる間はずっとつけておいてね」
ミカは同じことを言った。二度言うということは大事なことなのだろうか。僕はわかったよとミカに返答すると彼女はにゃはははっと犬歯を見せて笑った。
王都シャドウパレスは僕が夢にまで思い描いた異世界の姿をしていた。多種多様な種族が大通りを歩いている。ダチョウをさらに大きくしたような鳥が荷馬車を引いている。
犬顔の人間が肉の串焼きを焼いている。
豚顔の大男が火のついた棒を持っていた。豚顔はそれに息をふきかける。ぼおっと大きな炎が舞う。
鳥の羽が生えたセクシーなお姉さんが胸を揺らしながら踊っている。
「ミカエラ姫、どうぞお召し上がりください」
身長一メートルほどの小さなおばあさんがリンゴをミカに手渡す。
「ありがとう、グラスランナーのおばあさん」
ミカはそういうとくんくんとリンゴを嗅ぐ。うんうんと頷き、ミカは胸元でリンゴを拭き、それを一かじりする。しゃくしゃくといい咀嚼音がした。
「ご主人も食べる?」
そういうとミカは自分が噛んだところを僕にみせる。
僕はあえてミカが噛んだところをかじる。
リンゴはあまずっぱくて美味しかった。
「ご主人、串焼きも食べよう」
ミカはわかりやすいほどはしゃいでいた。その姿を見て、僕も楽しい気分になった。
串焼き店でミカは二本、串焼きを購入する。
「はい、姫様熱いうちにどうぞ」
犬顔の男が串焼きに茶色のたれをぬり、ミカにそれをてわたす。串焼きからは香ばしいいい匂いがする。
ミカはそれを一本僕に手渡す。
その串焼きの肉は鶏肉ににている。香ばしくて甘辛いたれと相性はばつぐんだ。
「ご主人、たれが口についているよ」
串焼きをたいらげた僕の口をミカは見ている。僕が手で口をぬぐうよりはやく、ミカは舌で僕の口のまわりをなめとってしまった。
「ちょっとミカ」
僕は口ではそう咎めるようなこと言うが、正直うれしい。だってミカみたいな美少女がはげしくスキンシップをとってくるのだ。うれしくないはずがない。
ミカはにゃははっと可愛らしい笑みを浮かべている。
僕はミカの案内で王都を見てまわる。それはまるでデートのようだった。いつのまにか僕はミカと手をつないでいた。女子と手をつなぐのは久しぶりだ。恵美と外にでかけたのはもう一年以上前か。最後の恵美とのデートは水族館だったな。恵美は終始つまらなそうにしていたけど、ミカはずっとにこにこと笑っている。やっぱり女の子は笑顔にかぎるよな。どんなに美人でもむすっとしていたら、怖いもんね。
そうして王都を楽しく歩いていたら、あっという間に時間は過ぎ、夕暮れになった。
「ご主人といたら時間があっというまに過ぎるね」
ミカは僕に笑いかける。
それは僕も同意見だった。
ミカとのデートは人生で一番楽しい時間だった。
こうやってミカと楽しい時間をずっと一緒に過ごしたい。
そう僕は心の底から思った。
「さあ、お城に帰るよ」
ミカは僕の手をひいて歩き出す。
名残おしいけど帰るか。僕はミカに手を引かれて王都の石畳の道を歩く。
ミカのすべすべの手を握りながら歩いていると奇妙な集団とすれちがった。
先頭を歩いているのは猪顔の男だ。でっぷりと太っていて、大柄の男だ。赤い宝石のネックレスを首からぶら下げている。両手の指にも様々な宝石の指輪をつけている。趣味は悪いが彼が金持ちだというのが一見してわかる。
その後ろに狐顔の男が付き従っている。狐顔の男の手には短い革の鞭が握られていた。
さらにその後ろには十人ほどの男女の集団があるいている。
その集団の身なりはぼろ布一枚を体に巻き付けただけで、足元は裸足だった。先頭の猪顔とは真逆の酷いみなりだ。髪も肌も彼らは泥と垢で汚れている。
「こら、こんなとところで止まるな」
集団の一人の黒髪の女性がうずくまっていた。明らかに体調が悪そうだ。
その女性に狐顔は容赦なく鞭を振るう。
バシッという乾いた音がする。
「あれは奴隷たちね」
ミカは無表情でいった。
さっきまでもかわいい笑顔が嘘のようだ。
異世界だから奴隷制度があっても不思議ではない。それにしても扱いがひどいと僕は思った。でも僕が手出しをすることだろうかという疑問が頭をよぎる。
僕はこの月影王国に来たばかりだ。
この国の社会制度に口出す立場ではない。
奴隷たちは可哀そうだとは思うが、僕には何もできない。
「これはこれはミカエラ王女殿下」
両手をすり合わせながら猪顔の奴隷商人は僕たちに近づいてくる。その笑顔が若干の嫌悪感を僕に与えた。
「あんまり奴隷たちに酷いことをしないように」
ミカが猪男に注意すると彼はははあっとかしこまる。
きっとこれはこの時だけの態度に違いない。
その時、僕は夕暮れの日の光にてらされ、震えながら立ち上がる奴隷の女性の顔を見た。その顔を見間違えるはずがない。どんなに汚れていても僕にはわかる。
その女性は恵美だった。
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