第2話

 僕が入り浸っている空き教室は、扉の立て付けが悪く鍵が閉まらないという不具合がある。

 その不具合のお陰で僕は何の制限も受けず、出入りする事が出来ていた。


 今日もいつも通り、少し動きの重たい扉を開けるとあちこちに散らばった机と椅子が視界に入る。

 

 ふむ、今日も僕のほうが先か。

 ま、後輩の教室からのほうが距離があるから当たり前なのだが。


 後ろ手で扉を閉める。

 そして、散らばった机や椅子の中に二つだけ綺麗に定位置に置かれている椅子の片方に腰掛ける。


 ガチャッ


 !?


 扉の方からそんな音がした。

 

 「あ、葵!?」

 「ここの鍵、内側からだと掛けられるんですね」

 「な、なんで鍵掛けて……」

 「先輩と私の逢瀬を邪魔されないために……ですかね」


 蠱惑的な笑みを浮かべて、こちらに近づいて来る葵。彼女のそういった表情は、何故か惹き込まれてしまう魅力がある。

 

 「うっ……」

 「目を逸らさないで下さい、先輩」


 目に毒だと、脳が即座に判断して顔を逸らす。が、既に目の前まで近づいていた彼女の両手で頬を優しく挟まれて、顔を逸らす事が出来ない。


 「な、なにを……」

 「ふふっ、かわいい」

 

 今日の葵はおかしい。

 いつもより積極的というか、容赦がないというか。


 「私、自分が嫉妬深いなんて知りませんでした」

 「へっ?」

 「先輩が、今日女の子と二人きりで話していたのを見て、ズルいって思ったんです」


 女の子??

 僕に女友達なんて葵以外いないはずだけど……。


 「教えてください先輩。あの子は先輩とどういった関係ですか?」


 思い当たる節が全く無くて、困惑してしまう。

 必死に記憶を遡って、二人きりの状況になった事象を思い出していく。


 「あっ……」


 一個だけある。

 葵とはそこまで長い付き合いじゃないから、葵が知らなくてもおかしくない事が。


 「た、多分麟児りんじだ、それ」

 「麟児……さん?」

 「ああ、男だよ男。中性的な見た目してるから勘違いしても仕方ないっていうか……」


 佐野さの麟児りんじ

 僕のクラスのまとめ役である。大抵のことは何でも出来る人物で、男女共からの信頼も厚い。

 見た目が中性的であり、最近髪が長くなってきている為、遠目では女性と勘違いしてもおかしくない。


 「あ、え、わ、私の勘違い?」

 「うん、まぁ……麟児は仕方ないよ。最近何故か髪伸ばしてるし」

 「てっ、てっきり先輩の彼女さんかと…」


 ボッと顔が赤くなる葵。普段、余裕綽々に攻めてくる葵にしては珍しい表情だ。


 「あ……」

 「あ…?」

 「頭冷やしてきます!!」


 葵は、そう言って勢い良く空き教室から出ていってしまった。

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