空き教室で後輩と駄弁る日々

頬骨

第1話

 「先輩、何時になったら私に告白してくるんですか?」


 突然、後輩がそんなことを言う。机を挟んで対面に座り、普段なら昨日会ったことやらで雑談を交わすのだが、今日はどうやら違うらしい。


 「いや、しないけど」


 僕は端的に答える。

 彼女が欲しいと思うことはあれど、自分のことで手一杯の僕には、誰かの人生を背負い切る自信も覚悟もない。


 「そうですか。残念です」


 しょぼんと沈んだ表情を見せる後輩。


 「いやいや、あおいなら選びたい放題だろうに」


 後輩。津久茂つくもあおいは美人だ。人当たりも良い方だし、何より料理がとんでもなく上手い。


 「先輩一択ですね」

 「なんでだよ!?」


 だから、もっといい相手を選べるはずなのに。どうして、こんな冴えないボッチ男子高校生を狙っているのか訳が分からない。


 「気が合うからですよ」

 「ナチュラルエスパー辞めてくれる?」

 「ほら、息ピッタリです」


 クスクスと上品に笑う。そんな少しの仕草にさえ目を惹かれてしまう。

 僕は気持ちが落ち着かなくて、意味もなく左手で頭を掻く。 


 「先輩は深く考えすぎですよ。恋愛なんて、いっときの感情で色々しちゃう方が楽なんですから」

 「葵がそれ言う?」

 「私は先輩一筋なだけです」

 

 身持ちの硬い葵が、そんな恋愛観を持っているとは驚きだ。

 というか、それつまり……。


 「僕、もしかしてオッケー出した瞬間襲われる?」

 「ふふっ、どうでしょう?」


 意味深な言葉と蠱惑的な笑み。

 ほとんど正解だと言っているようなものだ。


 「あの……。ちょっとお手洗いに……」

 「そんな怖がらないでくださいよ。無理矢理するのは趣味ではないですから」


 ビビって逃げようとした僕に、葵は肩を落として自身の癖ではないことを語る。


 「ビビったよ。貞操の危機を肌に感じた」

 「本来逆なはずなんですけどね」


 確かに。

 男と女が二人きりの教室となれば、警戒するべきなのは当然彼女の方だ。

 

 「あ、私としては先輩から無理矢理……というのは大歓迎ですので!」

 「しないわ!!」


  

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