第4話 ちょっステータスオープンとかw

「大丈夫ですか? 突然ホッペタを抓るから心配しました」


「呪文……ありがとう。ご、ごめん。眼の前にリアさんみたいな美人が居るのが信じられなくて夢かと思ったんだ」


 俺は咄嗟にセクハラで怒り出すか呆れられるかのギリギリな言い訳をする。

 日々の疲れで幻覚を見たとか、明晰夢で起きれなくなるのが怖かったとか、正直に言うのは軟弱男みたいで恥ずかしかったんだよ。

 ちょっとでも格好をつけたくてナンパのセリフみたいになっちゃったけど、情けない男と思われるよりかはマシだろう。


「そんなタモツ様……私が美人だなんて、お恥ずかしいですわ。ポッ」


 あれぇ~? 思っていた反応と違うぞぅ?

 俺のナンパセリフを怒りもせず呆れもせずストレートに照れだした。

 そんな反応されると、俺もめっちゃ恥ずかしいんだけど。


 お互いに照れてしまい、しばらく下向いて黙る俺達。

 このままじゃ駄目だ。

 だってこのまま黙ってたら朝になっちゃうからね。

 さすがに完徹なんかで仕事に行った日にゃ過労死しかねない。


 そのことを思い出した俺は、場の空気を元に戻すために口を開いた。


「あははは、ごめんごめん。つい口が滑っちゃった。それより君がここに来た理由だけど、なにか心当たりないの?」


「え? あっはい。実は私は……いえ、私達は魔王が眠る大迷宮『アビス』を探索していた討伐隊だったのです」


 はい! いきなりついていけません。

 深刻な顔をして事情を話しだしたリアさんだけど、ごめん「だったのです」と言われても困る。

 さっき「認めるしか無い」とか心の中で言っちゃってたけど、流石に魔王とか討伐隊とかキツイって。


 ちょっと、もうマジモンのアレじゃないですか。

 ほら漫画や小説とかで流行ってる異世界転移とかいうヤツ。

 いや、状況的にソレしか有り得ない演出とか、今も空中を浮遊している怪しいメッセージボードとか彼女の言葉を証明するものばかりなんだけどさ。

 それに向こうからこっちに来るタイプかぁ……、出来るならチートを貰って俺が異世界に行きたかったな。


 と、脳内で色々と言いたいことを言っているが、勿論リアさんにはそんな事は言えない。

 嘘を吐いているように見えないし、全部聞く前に否定しても仕方ないからね。

 恐らく今の空気でそんなこと言っちゃうと多分リアさん泣いちゃうだろうし。


「なるほど、魔王が眠る大迷宮ですか、それは大変でしたね」


 心の中のモヤモヤ押し込めつつ労うセリフを言うと、リアさんは一瞬辛そうな表情を浮かべたが、感情を飲み込むかのようにゴクリと喉を鳴らし、更に事情を語り出した。


「……あと少しで魔王が眠る深淵の扉の前に着こうかという時に、悪魔の卑劣な罠が発動して闇に包まれました。いま思えばアレは転移罠だったと思います。悪魔の転移罠は即死魔法と同じ。行き着く先には確実な死が待っているのです」


 リアさんはその時のことを思い出しているようで、両手で自身を抱きしめガタガタ震えている。

 なるほど……その罠で死んだと思ったから俺の部屋を天国か地獄だと思ったのか。


「ラッキーでしたね。少なくとも俺の部屋には死なんて待ってませんよ」


「そ、そうなのでしょうか? あっそうだ!」


 俺の言葉におずおずと上目遣いをしていたリアさんだけど、急に何かを思い付いたのか片手を前に突き出した。

 歌舞伎の見得を切っている仕草のようだけど、そんなわけ無いよね。

 また何か呪文でも唱えるのだろうか?


「ステータスオープン!」


 リアさんの行動を不思議そうに見ていた俺は、彼女が唱えた言葉に思わず噴き出しそうになった。

 ちょっ待って! ス、『ステータスオープン』ってマジですか?

 リアさんってそっち系の世界の人なの?

 一体どんな理屈でステータスとか表示できるんだよ。

 くっそー、実はなにげに一度は言ってみたい俺的ランキング3位のセリフだわ『ステータスオープン』。

 いや、実際言ったことはあるけどさ、勿論何も起きなくてただ単に一人恥ずかしい思いをした黒歴史だけど。


 なんてことを思っていると、本当に彼女の手の平の先に俺の上に浮かんでいるメッセージボードと似たような青い光を放つ半透明の板が現れた。

 うわっ! マジで出た!

 いいなぁ~、俺も使ってみたいなぁ~。


 半透明なので書かれている文字はこちらからでも見える。

 勿論鏡文字みたいに逆だけど。

 なんとか脳内反転補完して書かれている内容わ確認すると……、名前とレベル(プッと職業(ププッとHP/MP(プププッに能力値(ププププッとスキル(wwwwww!

 ぶはははは! くぅ~! これは痒い所に手が届くと言える完璧な『ステータスボード』だわ……ん?

 あっ……。

 ……ま、まぁ、プライバシーな個人情報だからあんまりジロジロ見るのも悪いかな。

 漫画とかの中でも「失礼だから勝手に見るもんじゃない」とか釘刺されてたりするし。


 ……突然そう思ったのはアレだよ。

 なんか書かれている情報の中に、身長体重スリーサイズどころか『性交経験』とかまで項目があったんだ。

 他にもエッチ系ゲームに出てくるような『感度』とか『深さ』とか色々怪しい項目名も見えたんだけど……なんなのこのステータスボード?

 誰が造ったのか知らないけど、ふざけてんの?

 それとも舐めてんの? いや、舐めると言ってもそっちの意味じゃないけど。

 勿論、項目名が目に入った瞬間に目を逸らしたから、それらの情報は未確認だよ。


「そ、そんな……こんなことって……」


 気を使った俺が目線をあからさまに逸らしていると、彼女は驚きの声を上げた。

 な、なんだ突然。

 も、もしかして……『性交経験』が『無』から『有』になっていたとか? いや、俺は無実だ!

 手なんて出してないから疑わないで!

 そんな風に冤罪だと言う事を主張しようとあたふたしている俺を尻目に、彼女はポツリと呟いた。


「私……、いま……石の中にいるようです……」


「は?」


 なにそれ? 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る