第7話 永遠の帰り道


ある夜、明美は自室で特別な三面鏡を見つめていた。その鏡は、彼女が最初に変容を遂げた場所から持ち出したもの。左の鏡には山田が、中央の鏡には佐藤が、右の鏡には女性刑事が映っている。


全員が同じジャケットを着ていた。その表情には、苦痛と恍惚が入り混じっている。永遠の美に囚われた魂の表情。明美にはよく分かる。彼女自身が通った道だから。


クローゼットからは、数十の声が聞こえてくる。悲鳴か、嗚咽か、それとも歓喜の声か。明美にはそれが、この上なく美しい音楽に聞こえた。それは、彼女が最初に聞いた「変容の歌」と同じ旋律。


「さあ、みんな」


明美はクローゼットのドアを開けた。そこには、無数のジャケットが吊るされている。それぞれが、かつて人間だった存在。永遠の美を求めた魂たち。そして、その奥には特別な一着。明美を変えた、あの最初のジャケットが。


「お帰りなさい」


鏡の中の顔たちが、一斉に明美に向かって笑みを浮かべた。その表情は、喜びと恐怖が入り混じった、不気味なものだった。まさに、明美自身が永遠に浮かべ続けている表情そのもの。


永遠に続く帰り道。それは、終わりのない恐怖の始まりに過ぎなかった。


そして今夜も、新たな魂が帰りたがっている。永遠という名の恐怖の中へ。


エピローグ:新たな客

あなたも、この美しいジャケットを試着してみませんか?

きっと、最高の「帰り道」をご案内できるはず。


永遠の美を求めて。

永遠の苦痛とともに。

永遠の変容への道へ。


全ては、鏡の中から始まる。

そして、終わることのない恐怖へと続いていく。


(終)

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『喰う女 -永遠の帰り道-』 ソコニ @mi33x

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