第2話 帰る道
その夜、山田は不安な気持ちを抱えながら帰路についていた。地下鉄の窓ガラスに映る自分の顔が、妙に歪んで見える。その歪みは、明美が最初に見た歪みと同じ形をしていた。
車内アナウンスが、どこか遠くから聞こえてくる。「次は...永遠に...次は...終わらない...次は...」同じフレーズが、エコーのように繰り返される。
駅から自宅まで、たった10分の道のりだ。しかし、今夜はその距離が異常に長く感じられた。街灯の明かりが、いつもより暗い。そして、その光が赤みを帯びている。まるで、無数の血管を通して光が漏れ出しているかのように。
背後に誰かの気配を感じ、山田は振り向いた。誰もいない。しかし、確かに誰かの呼吸が聞こえる。温かい吐息が、首筋に触れる感覚。まるで、生地が肌に触れるような。
街灯に照らされた自分の影が、どこか違和感があった。影の形が、徐々に明美のシルエットに変わっていく。そして、その影の中から、無数の糸が伸びてくる。縫い目のような、血管のような糸が。
「気のせい、よ」
自分に言い聞かせるように呟いた瞬間、影が動いた。糸が一斉に山田に向かって伸びてくる。彼女は走った。しかし、その一歩一歩が、まるでジャケットの中を歩いているような感覚だった。
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