事故物件

山岸マロニィ

第1話

「……はい、〇〇不動産です」

「もしもし、空き部屋の問い合わせいいスか?」

「もちろん歓迎ですよ」

「三丁目の‪‪✕‬‪✕‬ハイツなんスけど」

「あいにく、そちらは満室にとなっております」

「え? そんなハズないッしょ。だって、この前殺人事件があったじゃないスか」

「えっ……」

「三階の東の角部屋っスよ」

「……あぁ、確かに」

「もう次、入っちゃったんスか?」

「いや……」

「なら、近々掃除して、入居者募集するんスか?」

「いや、あの部屋は募集しませんね」

「なんで?」

「まだ犯人が捕まってないでしょう。ですからご遺族が、犯人逮捕まで、事件現場をそのままの状態で保存したいと、契約を続けられるそうです」

「マジすか! それは残念だなぁ」

「……というと?」

「正直、あの部屋、前から狙ってたんスよ。駅は近いし見晴らしいいし、建物も新しいっしょ。ただ、家賃が高くて手が出なかったんスよ」

「……はぁ」

「だから、殺人事件があったと聞いて、事故物件なら安く出るんじゃないかと思って、電話したっつー訳です」

「…………」

「あ、ちょっと不謹慎でした?」

「……ええ、まぁ……」

「でも、不謹慎も何もないっしょ。おたくらだって、殺人事件があった部屋じゃ持て余すだろうし、こっちは安い分には助かるし」

「事故物件がご希望でしたら、他にもご案内できる物件はございますよ」

「いや、やっぱあの部屋がいいっスね。何なら、遺族の方を説得して欲しいっスね。あんないい場所、誰も住まずに置いとくの、もったいないっしょ。近所の人も気分悪いし」

「こちらからそういう話はできませんね」

「なら、俺から話しますよ」

「個人情報はお教えできませんので」

「知ってるから大丈夫っス」

「えっ?」

「……あ、いや、ネットの掲示板とかで、被害者の情報、ガンガン出てるんで」

「…………」

「やっぱこういうの、不謹慎スか?」

「ご遺族からすれば、あまり気分の良いものではないでしょうね。下手すれば、警察沙汰かと」

「警察沙汰はマズいっスね……」

「あの部屋は諦めて、他を探されては?」

「チッ。せっかく事故物件にしたのに……」

「……えっ?」

「いいです、また他を探しますから」

 ――ガチャ。

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事故物件 山岸マロニィ @maroney

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