畑のスイカ

 祖母と祖父は孫たちが好きそうなイチゴ、スイカ、うりなど甘いものを植えて、それをおやつにだしてくれた。


 なかでもスイカを作るのが上手で、大きくて丸いスイカを包丁で切る時に『えいやっ!』と掛け声がいるくらい立派なものを作っていた。


「スイカは甘いかどうかあけてみなきゃわからん」


「おばあちゃんでもわからんの?」


 野菜も果物もお料理もお裁縫も上手な祖母だから、幼い頃の私はなんでもできるだろうと思っていた。


「スイカはちょっとなぁ~。音を叩いてコンコンと低い音が良いと言うものもいれば、高い音が良いというものもいる。でもけっきょく切ってあけてみるまではわからんと思ってる」


 自分はスイカの目利きができるスイカ名人だと思って開けたら、スイカに裏切られたことがあるのだろう。祖父と祖母はなんでも互いに張り合う。スイカでもどっちが美味いスイカを当てることができるか?なんてこともやっていたから、勝負中になにかあったに違いない。


 そんなスイカだが、夏にはたいてい野菜室に半分切ったものがドーンと偉そうに他の野菜を押しのけて入っていた。


 夏の暑い日、スポーツクラブに所属していた私は喉はカラカラ、お腹はペコペコで帰ってきた。好きなものを冷蔵庫から出して食べていいし、作っていいことになっていたが、もうなにか作ろうとかなにか用意しようという余裕もないくらい餓えていた。例えていうなら、砂漠帰りくらい喉が渇き、飢えていたのだ。


「あっ!スイカ!!」


 私はスイカを見つけた。そしてひらめいた!


 そうだ。今日は姉妹たちもいない。他の家族も見ていない。これはスイカを一人占めするチャンスだ!


 おもむろに半球のスイカを大きい皿にのせた。もちろん皿からはみ出ている。私の手にはカレー用の大きいスプーン。


「いただきまーす!」


 赤い果肉をすくって食べる。しゃりっとして甘くて、じゅわりとスイカの汁が出てくる。水分もとれるし、これだけ大きなスイカを食べたらお腹もいっぱいになるに違いないと自分の名案を褒めたいくらい気分が良かった。


 しかも食べ頃で良い出来の甘いスイカだった。


 私はどんどん冷えているスイカをスプーンですくって食べていく。


 しかし突然、残り三分の一くらいになったころ、スプーンを持つ手が止まった。


 さすがにもう食べきれない。いくらアッサリとしていておいしいといっても、もうスイカは見たくないくらい食べた。


 最後に残ったのは、気持ち悪くなるくらい食べ、もう当分スイカは見たくないという私とスイカの皮だった。


「あれ?スイカ、もう食べたんやったっけ?納屋から持ってきて冷やしておくかなぁ」


 祖母が夕食作りの前に冷蔵庫を覗いて言う。何個も納屋に転がっているから、食べてくれてありがとう状態なわけで、私が一人で食べたことなど、みんなどうでもよかった。消えたスイカの追跡も追及もだれもしなかった。


 スイカ食べすぎて胸のあたりがムカムカ気持ち悪くなっていたが、その理由は言えず、一人で苦しむはめになった私だった。


 この時に一生分食べたから、今でもスイカは『一切れで充分です』と言っている。


 どれだけ夏の暑い日に帰ってきて、喉がカラカラであろうともお腹が空いていようとも、スイカにはご用心!!

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ホットケーキに大さじ3杯の砂糖が私の帰る場所 カエデネコ @nekokaede

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