ストーブの上の焼き芋
祖母の部屋の石油ストーブの上では、なんでも焼かれていた。
小学校から歩いて帰ってきていた。雪の日はたいてい雪をの中をわざと入って遊びながら帰ってくるから、足先まで冷えていた。帰ってくるなり、すぐに暖かい祖母の部屋へ入り、ストーブに足の裏や手をかざして温める。
ストーブの上はお餅やかき餅の時もあったが、さつまいもをよく焼いていた気がする。
銀色に光る皺くちゃのアルミホイルにギュッと包まれたさつまいもを時々、祖母は分厚い手でコロンと転がした。
「さつまいも、焼いてるよ。焼けたら食べね?」
「さつまいもかぁ……」
私はたいてい気乗りのしない返事をしていた。さつまいもが苦手だ。野菜なのに甘い。モゴモゴするような食感。一口ごとに水が欲しくなってしまう。
ジワジワとストーブの火に炙られて、焼けてくると、香ばしくてどこか甘い匂いが部屋に漂い出す。
「いいニオイがしてきた!」
「そうやろ?美味しそうやろ?小さいのでも良いから1つ食べね」
「うん」
私は苦手なはずなのに、その匂いにつられて食べたくなってくる。アルミホイルの中身は変わらないさつまいもだったが、まるで騙されたように食べたくなる。
祖母はストーブから素手のままおろしてきて、アルミホイルをアチチといいながら、外す。テーブルにおいて、皮をむくとホックリ黄色い中身が出てきた。
「甘い!」
「ストーブで焼くとね。甘みが増すんだよ」
私の反応に満足そうな祖母。時々、この熱々のさつまいもにマーガリンやバターをのせて食べた。黄色の上をゆっくりと滑るように溶けていき、塩気がさつまいもの甘さに足されて贅沢な美味しさになる。
自分で編んだ手編みの毛糸のベストを着ている祖母は他の私の姉妹にも順番にさつまいもを渡していく。そして最後に自分も美味しいと言って顔をほころばせて食べていた。
苦手なさつまいものはずなのに、食べれる不思議。そのうちもしかして克服するかもしれないなぁと思っていた。
しかし私のさつまいも嫌いは治らないまま大人になってしまった。学校から帰ってくると、祖母が暖かい部屋で焼いてくれた、石油ストーブの上のさつまいもだけは特別だったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます