第9話

 薄暗い洞窟の通路が、少しずつ明るさを増してきた。


「あそこです。出口が──」


 リシェルが小さく声を上げる。確かに、前方に明るい光が見えていた。


 でも同時に、後ろからの足音も近付いていた。おそらくスケルトン兵長配下の巡回兵だろう。上司が倒されたことに気付いたのかもしれない。


「リシェルさん、もう少しです」


 彼女の手を引きながら、俺は駆け抜ける。ゾンビの時には考えられなかったスピードが出せる。


 そして──。


「外の光……!」


 二人は洞窟の出口を飛び出した。


 長い間、俺が閉じ込められていた暗い世界から、ついに解放された瞬間だった。


 眩しい日差しに、目を細める。アンデッドになって心配していたが、日光を受けても大丈夫のようだ。


「シュウさん、大丈夫ですか?」


 リシェルが心配そうに俺を見上げる。その姿が、日の光の中で、一層美しく見えた。


「ええ、なんとか。それより休まないと──」


 足を止めて周囲を見渡す。洞窟の入り口からは離れたほうがいい。辺りには、まばらに木々が生えている。洞窟は山の中腹にあったようで、景色は緩やかに下っていた。


「あちらに、茂みがありますね」


 リシェルが指さす方向に目を向ける。確かに、身を隠すには適した場所だ。


「そうですね。少し休憩しましょう」


 茂みの陰に身を寄せ、二人は大きく息を吐いた。追っ手の気配は、もう感じられない。


「本当に……出られたんですね」


 リシェルが感動したように呟く。彼女にとっても、辛い場所からの脱出だったのだろう。


「ああ。やっと──」


 そこまで言って、ふと気付く。


「そういえば、リシェルさんは、なぜ追放されたんですか?」


 聖女という高貴な身分でありながら、どうしてこんな場所をさまよっていたのか。


 リシェルは一瞬、悲しそうな表情を浮かべた。だがすぐに、気丈に微笑む。


「それは──」


 話の途中、不意に彼女の体が揺らめいた。


「リシェルさん!?」


「大丈夫です。ただ、少し……疲れが」


 魔物との戦いでの力の消耗。それに追われながらの逃走。相当な負担がかかっていたのだろう。


 彼女は俺の腕にもたれかかるように寄り添った。その仕草に、思わずドキリとする。


「少し、休ませてください……」


「ええ。ゆっくり休んでください」


 疲れからか、リシェルの瞳が徐々に閉じていく。


 俺は彼女を支えながら、遠くを見つめた。下り坂の先には、人里らしきものが見えている。


 次はあの方向を目指すべきだろうか。でも、アンデッドの俺が、普通の村で受け入れられるだろうか?


 様々な不安が頭をよぎる。




-------


読んでいただき、ありがとうございます。


【フォローする】をお願いします!


【作品ページ】に戻ってもらって、【レビュー】の【★で称える】を三回押してもらえると喜びます。


X(Twitter)もはじめたので、フォローをお願いします。

https://x.com/sabazusi77

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る