第7話
魔物の体が大きく揺らめいた。どす黒い液体が滴り落ちる。
俺の拳がもう一度魔物を打ち砕こうとした時、不思議な光景が目に入った。
「祈りを……捧げましょう」
少女が両手を胸の前で組み、静かに目を閉じる。
その瞬間、彼女の全身が淡い光を帯び始めた。金色の髪が、まるで光の糸のように輝きを放つ。
「な……」
俺は思わず足を止めた。
まばゆい光の柱が、魔物の身体を包み込む。
光は美しく、神々しかった。でも同時に──。
「うっ……熱い……!」
その光が、アンデッドでもある、俺の体までもジリジリと焼き付ける。
魔物は激しく悶え苦しんでいた。黒い体が光を避けるようにうごめき、徐々に形が崩れていく。
「消えなさい──」
少女の声が響く。光は一層強くなり、魔物の姿が光に溶ける。
次の瞬間、黒い体が、霧のように霧散していく。
「はぁ……」
少女が小さくため息をつく。光が収まるのと同時に、彼女の足から力が抜けた。
「危ない!」
俺は慌てて駆け寄り、倒れかけた少女を支える。
「ごめんなさい……少し、力を使いすぎて」
「大丈夫ですか?」
思わず丁寧な言葉遣いになっていた。どこか、この少女には荒々しい言葉を使えない雰囲気がある。
少女は俺の腕の中でゆっくりと目を開けた。
キラキラと輝くエメラルドグリーンの瞳が、俺をじっと見つめる。
「あなたは……アンデッド、ですよね?」
「っ!」
俺は咄嗟に腕を引こうとした。人に近づきすぎてはいけない。化け物である自分が──。
「待ってください!」
少女が俺の腕を掴む。その手から伝わる温もりに、どきりとする。
「私を助けてくれて、ありがとうございます。私は──」
少女は一瞬言葉を切り、悲しそうな表情を浮かべた。
「かつての聖女……リシェルと申します」
「聖女……?」
「はい。でも今は、追放された身です。この洞窟に、置き去りにされて……」
追放された聖女。その言葉に、どこか引っかかるものを感じる。彼女もまた、居場所を失った存在なのか。
「私は……」
俺は言葉に詰まった。自分の名前。そうだ、前世の名前を──。
「シュウ、です」
「シュウ、さん……」
リシェルが小さく微笑む。その表情があまりに眩しくて、思わず目を逸らしてしまう。
「あの、シュウさん。私からお願いがあるのですが」
「お願い、ですか?」
「はい。私に……この先の道を示してはいただけないでしょうか」
リシェルの声が震えていた。追放され、独り洞窟を彷徨っていたのだろう。その不安は、痛いほど分かる。
俺も同じように、これからの道を探している途中なのだから。
「外に……出ましょう」
俺は迷わずそう言った。この暗い洞窟に、もう用はない。
-------
読んでいただき、ありがとうございます。
【フォローする】をお願いします!
【作品ページ】に戻ってもらって、【レビュー】の【★で称える】を三回押してもらえると喜びます。
X(Twitter)もはじめたので、フォローをお願いします。
https://x.com/sabazusi77
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます