第5話

 光は徐々に強くなり、俺の体を包み込んでいく。


「ゾンビからの、進化を開始します──」


 不思議な声が、また頭に響いてきた。


「うっ……熱い……!」


 ゾンビのはずの体に、灼熱の痛みが走る。腐っていた肌が、次々と再生されていく。


 青白かった肌は、薄いグレーへと変化し始めた。ただれていた傷跡が、徐々に塞がる。


「ゾンビから、グールへの、クラスチェンジを実行します──」


 筋肉が超再生され、骨が強化されていくのを感じる。


「ぐ……あ……、言葉が……?!」


 喉から出る声が、少しずつ人間らしくなっていく。今まで「ア、ヴ」としか出なかった唸り声が、はっきりとした音声になってきた。


 水たまりに映る顔を見て、俺は息を呑んだ。瞳に、かすかに赤みが差している。暗い洞窟の中なのに、視界が以前より鮮明になっていた。


 そして何より──表情が戻っていた。


「スキル『血の渇望』を習得します──」


「血の……渇望?」


 その言葉と同時に、俺は不思議な感覚に襲われた。


 鼻腔が研ぎ澄まされ、周囲の匂いが急激に強く感じられるようになる。特に、スケルトン兵長との戦いで床に飛び散った血の痕が、妙に気になり始めた。


「これは……まさか……」


 生きている者の血を求める欲望。それが「血の渇望」というスキルの正体らしい。恐ろしい力だが、今はまだその衝動は弱い。


「進化完了。アンデッド種、グールに進化しました──」


 光が収まり、声も消えていく。


 俺は立ち上がって、全身を確認してみた。関節もスムーズに動く。手足も簡単には外れない。


「人間に、近づいたのか……?」


 まだ体温は低いままだ。完全な生者ではないようだ。


 周囲のゾンビたちは、俺の変貌を呆然と眺めていた。彼らにも変化は見えているのだろう。でも、その意味までは理解できていないかもしれない。


「よし、これなら……」


 俺は洞窟の出口の方を見た。スケルトン兵長は倒れ、監視の目は消えている。


 今なら、きっと逃げ出せる。


「ついに、地獄のブラック労働から解放される──」


 洞窟の出口に向かって走り出す。以前よりずっと体が軽い。グールになって、動きがしなやかになったせいだろう。


 その時、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


「誰か! 誰か、助けて!」


 若い女性の声だった。


「関係ない、さっさと逃げろ」と理性は告げる。せっかく自由を手に入れたのだ。


 でも体が、その声のする方へと向かおうとしていた。




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