第4話
「貴様ぁっ!」
我に返ったスケルトン兵長の怒声が響く。
「この俺様が、ゾンビ風情に舐められてたまるか!」
剣を抜き、俺の胸を一瞬で貫く。
──普通なら致命傷だが、ゾンビの体にそんなものは通用しない。
代わりに俺は、俺は落ちていた自分の右腕を拾い、思い切り振り回した。
「ウグァッ!」
スケルトン兵長は慌てて剣で弾こうとするが、間に合わない。派手な音を立てて、頭蓋骨に直撃した。
「ぐっ! こ、この……貴様、自分の体を武器に……!」
そうさ。ゾンビの最大の武器は、このボロボロな体そのものだ。何年もの間、体が壊れても、また直して働き続けてきた。今なら自在に扱える。
今度は、腰の骨をグキッと外してみせた。即席のボーンブーメランの完成だ。
「そんな戦い方、卑怯である! 騎士として恥ずかしくないのか!」
「ヴァ、ヴァ、ヴァ(俺はゾンビだ。恥も外聞もねえよ)」
渾身の力で腰の骨を投げつける。兵長は剣で受け止めようとしたが、骨は意表を突く軌道を描き、横から直撃。
ガキン!
「ぐはっ! 俺様の……華麗な、剣術が……」
その時だった。俺の視界に、見覚えのある物が映った。水たまりに落ちていた、赤茶色の錆びた採掘道具。
「っ!?」
スケルトン兵長が気付いた時には遅かった。俺は地を這うように滑り込み、全身の重みを使ってツルハシを振り上げていた。
「させるか!」
兵長の剣が振り下ろされる。が、もう止められない。
「ヴェャアアアア!」
錆びたツルハシが、兵長の頭蓋骨めがけて叩き込まれる。
ガキィィィンッ!
甲高い音が洞窟に響き渡った。
「ば、馬鹿な……この、俺様が……!」
スケルトン兵長の頭蓋骨が、スイカ割りのように、砕ける。汚い瘴気が激しく噴き出し、その体からみるみる力が失われていく。
「グハッ……こ、この……ゾンビ風情に……」
バラバラと砕け散る骨。
周囲で見ていた他のゾンビたちは、固唾を飲んでいる。彼らにも何かが伝わったのか、うめき声が少し違って聞こえる。
俺は、ふと呟いた。
……やっちまった(かも)。
その瞬間だった。
「レベルアップ。スキルを解放します──」
どこからか、不思議な声が響く。
俺の体が、淡い光に包まれ始める。
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