第2話
採掘道具を手に取って既に何年が経ったのか。
俺は一日中、ゾンビたちと共に洞窟を掘り続けていた。
「たるんでるぞ! お前ら、さっさと掘れ!」
骸骨兵士──俺はスケルトン兵長と呼んでいる。彼の怒鳴り声が洞窟に響く。
腐った肉と泥水しか与えられない日々。ゾンビには休息は必要ないという理不尽な理論で、俺たちは休みなく働かされ続けていた。
相変わらず関節はギシギシと音を立てる。時々、腕や足が外れそうになるが、その度にゆっくりとはめ直す。慣れてきたとはいえ、やはり不気味な感覚だった。
「エ、ゲォ……」
言葉は相変わらず片言で、長い文章を話すのは難しい。他のゾンビたちはさらに症状が重く、ほとんど意思疎通もできない。
「貴様! また動きが遅いぞ!」
スケルトン兵長が俺に向かって罵声を浴びせる。黒い瘴気を漂わせた骸骨の姿は、この場で誰よりも目立っていた。鎧の表面にはうっすらと呪印のようなものが浮かんでいる。
そして、奴の性格は最悪そのものだ。スケルトン兵長は「自分は生前騎士だった」と吹聴しているが、まるでブラック企業の中間管理職のようだった。
「おい、貴様! 冒険者の囮になってこい!」
洞窟には時折、ダンジョンの探索や魔石の採掘のために、冒険者たちが来る。スケルトン兵長は、戦力として使い物にならない俺たちゾンビを、捨て駒に使った。
「動きが鈍い奴は、せめて盾くらいにはなれ! ヒャーハハハッ!」
高笑いが洞窟に響き渡る。小悪党にもほどがある。俺は仕方なく、冒険者たちの待ち構える場所へと向かう。
いつものように、剣で切られ、魔法で焼かれ、時には体がバラバラになる。でも死にはしない。既に死んでいるのだから当然だ。ただ、その度に体を組み直して、また働きに戻るしかない。
ゾンビの多くは、知性を失っているため反抗することはない。俺もゾンビ化して最初の頃は、ただ言われるがままに働いていた。
しかし最近になって、俺は死んでも働かされ続けるこの状況に、どこか引っかかるものを感じる。前世のブラック企業と重なって見えてくる。
「もっと早く動けんのか! 貴様ら使えないゾンビどもが!」
スケルトン兵長の怒号に、他のゾンビたちは黙々と土を掘り続ける。でも俺は違う。心の中で、少しずつ反発が募っていく。
それでも表面上は従順なゾンビを装う。暴言を吐かれても「う、ぐ……」と唸るだけ。
時には鉄の鞭のようなもので叩かれることもあった。体は腐っているとはいえ、痛みは感じる。ゾンビにも疲労はある。でもスケルトン兵長は、そんなことを一切気にかけない。
毎日毎日、延々と繰り返される、非道な労働。
ゾンビになってからの記憶は曖昧だ。けれどこの状況は、人間だった頃のトラウマを刺激する。ブラック企業でこき使われ、過労死した記憶が蘇ってくる。
俺の中で、何かが──限界を迎えようとしていた。
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