第2話
二度目の出会いは、こんなように昼も過ぎた学食でのことだ。昼食時に行くと、とんでもなく混んでいて目眩がして食欲も失せたので、二時前に行くことにした。高校時代までは孤独なんて無縁だと思っていたのに。スマホやパソコンがあれば、家族や友だちとどこまでも繋がっていられると思っていたのに。
講義に使われている基本書を何となく読むともなしに読みながら食べていると、「前よろしいですか」と来たのだ。春瀬は本を閉じて応じた。閉じなければ拒否できたのにと悔やんでも悔やみきれない。あらがってもどんどん相手のペースに巻き込まれる気がした。
「あ……」
「川村ですよ」
「コインランドリーでバスローブのこと力説してた人ですよね」
「買うた?」
「う……い、いいえ」
嘘をついてしまった。どうしてこんなところでこんなつまらない嘘をついたのかと思うくらい恥ずかしかった。買ったよと言えば話も進むはずなのに、ごくごく簡単な話でも素直になれない自分にキズ付いた。マークシートはコミュ力まで鍛えてくれないということだ。
「買うてないのか。ところでレディースマンションやろ?住んでるところ」
昼食を終えると、二人で何となく法学部と文学部のある丘の上まで歩いた。
「あの後考えたんやけど、マンションにコインランドリーとかないの?せっかくのレディースマンションの意味なくね?」
「ありますよ。でも何となくが引けるんですよね。同世代の人と話すのが」
「部屋に洗濯機ないん?」
「迷惑になるような気がして。てか、センパイはないんですか」
「あるよ」
あるんかいっ。
「洗濯機て干して畳んでくれんやん。ほんまに洗濯してくれるだけやん。この前家電コーナーでスマホで動かせる洗濯機見つけてな」
「いらないですね」
「そやろ?ふと思うてん。でも商品化して出るということは需要があるということやろ。誰がそんなに急いでるんやろうな」
「もしコインランドリーとかがあれば便利じゃないですか。スマホに知らせてくれれば」
「なるほどな。そや。もうあるんかな」
「こころ、おもしろいですか」
「ん?」
川村はジャケットから丸まって雨で濡れた後のような文庫本を見た。すり切れて表紙もなく角もボロボロだ。まるで自分が受験勉強時代に使い込んだ参考書のようだ。同じものを何度も読み返しておもしろいのだろうか。
「わからんな。高校生のときに初めて読まされてわからんだ。で、受験終えて読んでもわからんだ。で、今も読んでるけどわからん」
「いつかわかるときが来ればいいですね」
「わかる?」
「わからないです」
「俺だけがアホかと思うてた」
どういう意味やねん。
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