第5話 目的の確認
屋敷に戻ると父ジェームスへ時間をとってもらうよう依頼する。
この手のゲームや小説内の貴族は領地を放って王都で豪遊生活というイメージだったが、この父ジェームスは常に忙しそうに様々なところを飛び回っている。
流石は王国随一の商業都市プロスペリタスを領地に持つ伯爵だ。領内の各村、町に代官を置き、自身は王都にて商談をまとめ、自他国の情勢に関する情報を集める。
各代官と自身の間には常に連絡用の人員を確保して、密な連携を保っている。
(ゲームでは大人×子ども、持つもの×持たざるもの、って構図だったけど……)
父以外の貴族の働きぶりはこの目では見ていないが、ダレンの記憶を探ってもどうやら貴族の多くは真面目に政務に取り組んでいるようだ。
やはり貴族の全体でなく一部だけが土地や金が欲しくてゲーム本編に関わる動きをしたようだ。
しかし、誰が敵かが分からない。ゲームはドット絵でありパッケージに描かれた主要キャラ以外の容姿が分かりづらい。
ドット絵のゲームではモブの少年少女は黒髪、高齢者は白髪であり、色で分かるよう主人公パーティと主要敵キャラのみ髪色がついていた。
これを頼りに分かるのでは、と期待したが転生して初めて出会ったのはゲームに登場もしないのに白髪の少女リア……黒髪は圧倒的に多いが例外もまた多いようだ。
さらにゲームでの敵となる貴族は『腐敗貴族』、手先となり戦う騎士は『暗黒騎士』となっており、名前は出ていなかったはずだ。少なくとも記憶にはない。
その王国内の悪役もラストダンジョン前までには魔族から使い捨てられてゲームから退場している。
ちなみに僕ことダレン君が『ざまぁ』されるのはそれよりもずっと前、中ボスにもならなかった。ゲームでのモブの象徴、黒髪だったしね。
今のところ確実に敵となるのが分かっているのは帝国皇女グレースの実兄、帝国皇子のみである。
隣国の伯爵家と言えど、いきなり訪れて会ってもらえる立場ではない。
ともかく、ゲーム内の『腐敗貴族』が父ジェームスでないことは確実なようで胸を撫で下ろしながら、父に呼ばれた執務室へ入っていく。
「忙しい中、ありがとうございます」
時間を確保してくれたことに感謝を述べると父は笑顔で頷く。
「あまり構えて話す必要はない。親と子として気軽に話そう」
「ありがとうございます。まず、今後のことですがリアの神授式を待って、その後は領地の商業都市プロスペリタスを拠点に冒険者として活動しようかと思います」
「それは良い。ダレンがプロスペリタスにいるのは私としても心強い。冒険者の活動に騎兵団より人を貸す必要はあるか?」
「いえ、それは大丈夫です。ありがとうございます。発展を続けるプロスペリタスには様々な人が来ます。騎兵団には治安維持に努めてもらいたいと思います」
「気遣い、ありがたい。その意味でもプロスペリタスに伯爵家のダレンが居るのは良い抑止力になる」
「……最近は教会もプロスペリタスでの発言が強いような気もするのですが……」
「……正直それは私も頭が痛いところだ。教会や教会の展開する孤児院の活動は都市には必ず必要だが……土地柄かプロスペリタスの教会は少し商売気が強くもあるからな…………」
これで主人公の一人である聖女クレアが苦しむ原因となる孤児院の活動と父が関係をしていないことが確認できた。
そこで冒険者に合わせて、プロスペリタスにて行いたい活動を父に許可を得ることにする。
「騎兵の人員ではないですが、少し手伝ってくれる方を探しているのですが…………」
今後の思い描くことの許可も取れたし、父も領地の発展に成りうると喜んでくれて、とても有意義な時間となった。
「最後に、大事なことが一つあります。リアのことです……」
「ほう。聞かせてくれ」
父は穏やかに笑みをこぼして先を促す。
「リアの神授式後ですが、良い仕え先を紹介できればと思っています。リアは自身の頑張りから同年代の侍女よりも遥かに優秀だと思うので、リアの希望を叶えられたらと思っています……」
「ははっ、リアが今のダレンを離れる希望を出すとは思えないが、本人の思う仕え先を紹介しよう。腐っても伯爵ゆえ、その程度は顔がきくつもりだ」
父は大きく笑いながら頷く。謙遜しているが商業都市プロスペリタスを発展させ続けている傑物だ。
元々プロスペリタスは曽祖父の代まではごく普通の地方都市であった。しかし、祖父が得たジョブが『商人』であり、スキルも『交渉術』という商売にうってつけのものを得た。そこから国を代表する現在の商業都市へと姿を変えていった。
その祖父を継ぐ父はジョブが『料理人』であり、スキルは『算術』と侯爵家としてはハズレのジョブやスキルを得た。
しかし、接してみて実感する通りの優れた人格と、何でも実践してみる行動力から伯爵家嫡男としては異例だが実際に料理人として飲食店の現場を経験をし、そこから分かる店舗運営や職人に対する待遇を改善していき、『食』を中心にプロスペリタスをさらに発展させている。
伯爵家の跡を継ぐ可能性のあるダレンの危険のある冒険者活動を支持しているのも、自身の『何でもしてみる』経験ゆえだろう。
礼を言い、父の執務室を出る。これで3ヶ月後以後の行動がおおよそ決まってきた。
あとはそれまでここ王都で出来ることをしていこう。
翌日より3ヶ月は弟ヘンリーと過ごす時間を増やしていった。
今後ヘンリーも伯爵家を継ぐ可能性がある。というよりもヘンリーが継ぐことになるだろう。
3年間で出来るだけのことは行う予定だが、王国内の誰か分からない敵に加えて魔族もいる。3年後には実際に動きがあるはずだ。
その時にゲーム知識があるにも関わらず、見て見ぬふりをすることは出来ない。
前世では平和な時代を生きたため戦闘面で戦力になるとはあまり思えないが、ゲーム通りに幼い子どもたちだけに辛いことを押し付けたくはない。
(僕がバタバタするからヘンリーにはしっかり父を支えて貰わなきゃね)
ヘンリーには前世の教員経験を活かして勉強を教えている。
特に数学ではこの世界の水準以上のことは伝えられている。
その代わり歴史は一緒に学ばせてもらっている。
ダレン君の記憶ではしっかりと覚えていることが多いが、この国がどんな成り立ちをしたかを実感するのは非常に良い経験となり、歴史を実感するたびに転生からくるお客様気分は消えていった。
「お父様、兄様の教え方がとても上手なんです!」
「それは良い時間がもてているようで良かった」
食事場面ではヘンリーはことある毎に両親に向かい、ダレンの優秀さを説いている。
そのため、最近では継母アビゲイルやダレンの辛辣な態度からヘンリーに継いで欲しいと内心で思っていたであろう家人たちの態度がとても柔らかくなっていった。
そのように相変わらず忙しそうな父や関係が和らいだ母、懐いてくれるヘンリーと共に穏やかな3ヶ月を過ごした。
あいさつ習慣も継続し、王都の屋敷に仕えてくれる方とも関係の修復が少しずつ出来てきた。
そして、リアの神授式の日を迎えた。
※※※
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