帰る ーカクコン10 短編お題『帰る』ー

姑兎 -koto-

第1話 帰る

「そろそろ帰ろうか」

「そうですね。そろそろ」


我ら二人は、勇者として召喚されたジェネラルアーマーと賢者。

無事に闇を打ち払い、大団円。

その後、こっちの世界で夫婦となり幸せな余生を過ごしていたけれど。

次の勇者との交代時期が迫っている。


「ってか、定期的に闇が復活するこの世界ってどうなんだろ?」

「そりゃ、ユーザーあってのゲームですからねぇ。倒して終わりでは、やること無くなりますし。」

「でも、Ⅱが出たからってⅠが無くなる訳じゃ無いだろうに交代だなんて……」

「Ⅰは配信終了らしいですよ」

「君は、何でも知ってるんだな」

「そりゃ『賢者』ですから」


「配信終了したら、僕らの居場所は本当に無くなっちゃうんだな」

「でも、余生まで描いてもらえただけでも幸せですよ」

「そうだな『え?ここで終わり?』にならなくて良かった。運営さんが頑張ってくれて良かった」

「ですね。愛を感じますね」


「リアル世界では、どれくらいの時が流れたんだろ」

「5年か10年か、それくらいでしょう」

「そっか……。あっちでも能力使えるのかな」

「それはないでしょう。概念が違う世界ですから」

「だよなぁ」


そして、いよいよ帰る当日、運営さんから渡された玉手箱。


「これって、多分、アレだな」

「多分、逆浦島太郎的なアレですね」


リアル世界の時間軸に戻ってから帰るか、ゲーム世界で過ごした時間軸のままリアル世界に帰って余生を過ごすか。

玉手箱を開ければ、こっちに来る前の世界線に帰れる仕様になっているに違いない。

そうなれば、きっと、リアル世界で二人が出会うことはない。


「どうする?リアルの時間軸に戻して帰る?」

「戻さなくても良いんじゃありません?」

「だな。今更、人生やり直すのも面倒だしな」

「え?」

「え?」

「そこは、嘘でも「君の居ない人生なんて考えられない」って言わないと」

「そっか。ごめん。本当にそうだ。今更、君の居ない人生なんてありえない」


こうして、若返りの(?)玉手箱を使うことなくリアル世界に帰った勇者二人。


玉手箱の中に退職金が入っていたことを知らないまま、慎ましく仲睦まじく余生を過ごしたのでありました。とさ。


(運営さ~ん。凝った嗜好のつもりかもしれないけれど、玉手箱に退職金が入ってるなんて賢者でもわかりませんから~。説明不足ですから~)


ー完ー

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