第2話 走者編

「九回の裏、ツーアウト三塁、得点は1対1の同点。今、四番の柴田が打席に入ろうとしています。解説の高田さん、ここまで三打席連続三振を喫している柴田ですが、このサヨナラの場面で打つことができるでしょうか?」


「そうですね。打率が三割を超えている彼からすると、そろそろ打つ頃ですが、ピッチャーの田中もここまでヒット二本に抑えていますからね。四番としてのプレッシャーも相当あると思いますし、打つのは難しいのではないでしょうか」


 緊張した顔で打席に入る柴田を見て、三塁ランナーの土井にある考えがよぎった。


(あの様子じゃ、とても打てそうにないな。一点取るには、ここで盗塁してホームに帰るしかない。単独のホームスチールなんて、20年くらい前に新庄さんがオールスターゲームで成功して以来見たことないから、もし成功したらとんでもない騒ぎになるぞ)


 ピッチャーの田中が振りかぶった瞬間、土井はホーム目掛けて駆け出した。


(よし! スタートは完璧だ! バッテリーも意表を突かれて慌てているし、これは成功したも同然だな)


 土井がそう思った瞬間、柴田がバットを振り、打球は三遊間を抜けていった。


(なにー! 柴田のやつ、余計なことしやがって。せっかくヒーローになれるチャンスだったのに……)


 味方の選手がサヨナラ打を放った柴田に群がる中、土井はとぼとぼとベンチに帰っていった。


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