第3話 監督編

「九回の裏、ツーアウト三塁、得点は1対1の同点。今、四番の柴田が打席に入ろうとしています。解説の高田さん、ここまで三打席連続三振を喫している柴田ですが、このサヨナラの場面で打つことができるでしょうか?」


「そうですね。打率が三割を超えている彼からすると、そろそろ打つ頃ですが、ピッチャーの田中もここまでヒット二本に抑えていますからね。四番としてのプレッシャーも相当あると思いますし、打つのは難しいのではないでしょうか」


(柴田は今日当たっていないが、あいつはうちの四番だ。必ず打ってランナーを帰してくれるだろう)


 監督の大下はチャンスに強い柴田に全幅の信頼を寄せていた。


「今、柴田がやや緊張した面持ちで打席に立ちました。その柴田に対し、田中が一球目を投げ……ああっ! なんと三塁ランナーの土井がスタートしました! 今キャッチャーがタッチして、判定はアウトです!」


(なにー! 土井のやつ、なぜこの場面で走ったんだ? まさか単独のホームスチールが成功するとでも思ったのか? たしか20年くらい前に、新庄がオールスターゲームで成功させたことがあるが、あれはあくまでもお祭り気分でやってるから成功しただけで、この大事な場面で成功するはずないだろ!)


 その後、何食わぬ顔でベンチに帰ってきた土井を、大下は鬼のような形相で叱り飛ばしていた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る