第5話 ドキドキの洗濯場

 朝、いつも通り教会に到着した私は、最初に洗濯場へと向かった。児童たちのおむつをまとめて洗濯するのは、最近の私の日課となっていた。もちろん、それは自分のおむつを隠蔽するためだ。自分が担当すれば、誰にも知られずに済む。


「セーラ様、おはようございます」


 シスターマリアが、いつもの落ち着いた表情で声をかけてきた。


「おはよう、マリア……」


(どうしよう、今日も私のオムツが混ざってる……マリアに気づかれていないといいけれど……)


 不安が胸をよぎるが、顔には出さないようにして、なるべく自然に振る舞う。しかし、マリアの鋭い視線が私を捉えているのがわかる。何かに気づいているのだろうか。


「セーラ様、今日は朝からお忙しかったようですね。洗濯は、私たちが引き受けましたのでご心配なく」


「そ、そう……ありがとう、マリア」


(助かった……でも、これでバレてたらどうしよう)


 私は内心の動揺を隠しつつ、マリアの前を通り過ぎて洗濯場へ向かう。洗濯場ではアルメリアとベアトリスがすでに作業をしている。二人とも、児童たちのおむつを丁寧に洗っている様子だ。


「セーラ様、今日もお忙しいんですね。洗濯、すっかり遅れてしまいましたが、私たちでやっておきました」


 アルメリアがにこやかに話しかけてくる。彼女はいつも明るくて、気配りができるシスターだが、こういうときは逆にその明るさが恐ろしく感じる。


「ごめんなさい、急な用事が入ってしまって……本当にありがとう、アルメリア」


「気にしないでください! それにしても、最近ちょっとおむつの量が増えてますね」


 ベアトリスが、何気なくおむつを見つめながら言葉を漏らした。その一言に、私は思わず息を詰めた。


(やっぱり増えてるの、気づかれてる……?)


「そうね、最近はみんな成長してるから、おむつ替えのペースも早いのかもしれないわね」


 私はできるだけ自然に笑いながら言ったが、ベアトリスの視線が一瞬私の方に向けられた。


「まあ、そういうことかもしれませんね。でも、洗濯が増えるのは大変ですから、できるだけ協力していきましょう」


 ベアトリスはあくまで優しく言うが、私はその言葉にどこか引っかかりを感じた。彼女はただの善意で言っているのか、それとも何かに気づいているのか。


(このままじゃ、いずれバレてしまう……でも、どうすれば……)


 焦りと不安が胸を締めつける。しかし、どうにかしてこの状況を乗り越えなくてはならない。私は自分を落ち着かせるために、深呼吸を一つした。


「本当にありがとう、アルメリア、ベアトリス。今後はもっと時間を作るようにしますね」


 そう言い残して、私は洗濯場をあとにした。しかし、心の中ではシスターたちにいつかバレてしまうのではないかという恐怖が消えることはなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る