第1話 ねむねむな夜
(なんだか、今日はトイレに行くのが嫌だな……)
普段なら、寝る前に必ずトイレに行っていた。聖女として、生活のどんな細かいところにも気を配るのが私の日常だ。それなのに、今夜はどうしてもトイレに行くのが億劫に感じられた。疲れているのか、それとも何か他の理由があるのか……分からない。ただ、ベッドに横たわると、すぐに眠気が襲ってきた。
(今日は……このまま寝ても大丈夫……だよね……)
そのまま私は深い眠りに落ちた。
次に目が覚めた時、朝の日差しが部屋を照らしていた。まだ半分夢の中にいるようなぼんやりとした気持ちで、私は身体を伸ばし……その瞬間、何かおかしいことに気づいた。
(……あれ?)
ベッドが……濡れている?
一瞬何が起きたのか理解できなかった。でも、体を動かすと確かに冷たい感触が広がっている。私はゆっくりと目を覚まし、慌てて布団をめくる。
(嘘……こんなこと、ありえない……!)
信じられない。私は……オネショをしていた。最後にこんなことがあったのは、確か1歳の頃だったはずだ。あの時は幼かったし、仕方のないことだと誰もが言ってくれたけれど、今は26歳の聖女だ。こんなこと、ありえるはずがない。
(どうして……どうしてこんなことになったの?)
頭の中が混乱する。身体は冷たく、シーツは濡れ、なんとも言えない不快感が私を包み込んでいた。慌てて布団を片付け、着替えを用意しようとするけれど、手が震えて上手く動かない。
(こんなこと……絶対に誰にも知られたくない……)
私は一刻も早くこの状況をどうにかしなければと、必死に動き始めた。まずは濡れたシーツを取り替えなきゃ。そう思って、急いでベッドメイクを始める。けれど、心の中の焦りは消えず、不安がどんどん大きくなっていく。
(これが一度きりで終わればいい……)
そう願いながら、私は朝の準備を進めた。
*
(こんなこと……一体どうすれば……)
私は慌てて濡れたシーツと下着を抱え、自室のドアをそっと開けた。洗濯場へ急がなければならない。廊下には衛兵やメイドたちの姿があり、何事もないように振る舞うのが精一杯だった。
王城の洗濯場に到着すると、中にはメイドたちが数人働いていた。私は周囲を警戒しながら、端の洗い台に濡れたシーツと下着を置き、静かに洗濯を始めた。
「おはようございます、セーラ様」
背後から声をかけられ、心臓が跳ね上がる。振り返ると、にこやかな表情のメイドが立っていた。
「お、おはよう……洗濯をしに来たの」
「セーラ様が洗濯とは珍しいですね。いつもはメイドたちが……何かご用ですか?」
(やめて!それ以上は聞かないで!)
「ちょっと……洗濯したいものがあって。それだけよ」
私の声が僅かに震えていたのを悟られないよう、そっけなく返事をした。メイドは少し驚いた様子だったが、すぐに微笑みを返してくる。
「分かりました。では、何かお手伝いが必要でしたらいつでもお声がけくださいね」
「ええ、大丈夫だから」
内心は焦燥感でいっぱいだったが、なんとか会話を切り上げて再び洗濯に戻る。指先に伝わる冷たい水の感触が、昨夜の失態を嫌でも思い出させた。
洗濯を終え、シーツと下着を絞りながら私は心の中で自分を叱った。
(これが一度で済むなんて、そんな甘い考えは捨てなきゃ……次は絶対に気をつけるんだから!)
誰にも知られないように、私は物干し場でシーツを干し、急いで教会の準備を始めた。羞恥心と焦燥感が入り混じる中、私は無意識に自分の拳を握り締めていた。
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