侵食1段階目

第0話 帝国の策謀

 帝国の夜は冷たい風が吹き荒れ、月の光が雲の間に一瞬覗くほどの暗さだった。静かな山中に佇む帝国の拠点では、幾つかの灯火が淡く揺れている。深夜の作戦会議は、あまりにも緊張感に包まれていた。長老たちが集まり、帝国の工作員たちがじっと指示を待っている。


 会議の中心には、帝国の老魔法使いが座していた。彼女の顔は影で覆われており、その冷たい瞳が光るたび、周囲は一層の静寂に包まれた。彼女の前に置かれた人形が、作戦の核心を象徴している。それは、赤ん坊――セーラの運命を表すものだった。


「……すべての準備が整ったわね」


 魔法使いの言葉が響き、周囲の者たちは一斉に頷く。彼女は、赤ん坊の魂を抽出し、それをセーラに植え付ける計画を練っていた。


「まずはセーラ。あの教会は厳重な監視下にあるけれど……彼女は必ず赤ん坊を拾い上げる」


 工作員の一人、ミラが静かに頷き、籠を手にした。その籠には、あどけない顔で眠る赤ん坊が一人。だが、その赤ん坊の魂はすでに魔法で操作され、セーラの運命を大きく変えるための道具として作られた存在だ。


 ミラは無言で教会の方角に目を向けた。彼女の瞳に、冷たく計算された決意が浮かぶ。


 その夜、教会の前には一つの籠がそっと置かれ、冷たい風の中にその小さな命が静かに揺れていた。


 教会の鐘が微かに響き、私は小さな物音に目を覚ました。扉を開けると、冷たい夜風が頬を撫で、月明かりに照らされた小さな籠が目に入る。


「……赤ん坊?」


 私はそっと籠の中を覗き込んだ。その中には、小さな赤ん坊が静かに眠っていた。その瞬間、不思議な感覚が私を包む。


(何……これ?)


 気づけば、赤ん坊を抱き上げていた。冷たい夜風を遮るように胸に抱いた途端、微かな光が赤ん坊を包み、それは私の中へと溶け込むように吸い込まれていった。


「え……?」


 光が消えた後、腕の中の赤ん坊の姿はどこにもなかった。私は混乱し、あたりを見回したが、人影はおろか籠すらも見当たらない。


(気のせい……?いや、確かに……)


 胸に残る微かな温もりを感じながら、私は首を振って教会の中へ戻った。冷たい風が扉を叩く音だけが、静寂の夜に響き続けていた。

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