迷い猫が冬空の下を歩く。
吉野 真衣
迷い猫が冬空の下を歩く。
一匹の迷い猫が居た。他の猫たちは寒さから逃れるため民家の影に隠れている。しかしその猫は冬空の下で街を歩いていていた。しっぽは垂れ下がっている。もしかしたら寝床に帰るかもしれない。姿を見かけた老人は後を追った。
「どこへ向かう? 猫が」
見下したような口調とは裏腹に猫への眼差しは純粋無垢そのものだった。だからだろう。時折振り返り「ちゃんと来てる?」と確認するように猫は老人を凝視する。どこへ行こうというのかね……名台詞が頭に浮かんだ。
猫は猫らしく、人間は人間らしく。その言葉がよく似合う場面は夕刻まで続いた。結局、老人の家に辿り着いたのだった。無言で何かを訴える猫に老人は安堵した。老人は重度の認知症で家族とも疎遠になっていた。しかし不思議と介護士との会話は成立していた……と言えばなんとも歯がゆい世の中だ。
「まあ、猫とも会話が成立するぐらいだから、他の連中は――」
偏屈な性格になったのには必ず理由があると思う。猫にはそれが分かっていたのだろうか――。
迷い猫が冬空の下を歩く。 吉野 真衣 @yoshinomai1202
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