Song #2

クビになってから1週間ほど経った。


相変わらず金はないが、やることがない。


俺の一日はバンド練習で成り立っていた。


10:00ぐらいにいつものスタジオで集合して、ケースから真っ白のベースを取り出して、エフェクターボードを足元に置いて、シールドをベースにさして、アンプにもう片方をぶち込んで、ボリュームノブを全開にして、4弦を弾く。


そうして18:00ぐらいまで練習をして帰る。


これが俺のルーティーンだった。


それがなくなった今、自分に残っているのはずっと弾いてきた、

側面が一部はげている、年季の入った白いベースだ。


そのベースを手に取っては、コードを弾いて、元にあった場所にかけて、また手に取って、弾いて、またかけて、また弾いて、、、


そんな生活だ。


はっきり言ってうんざりだ。


俺は1人で孤独にベースを弾きたいんじゃない。


バンドで演りたいんだ。


かと言って一緒にしてくれる友達もいない。


俺は高校生の時からベースを弾いていたわけだが、そのおかげか、全くと言っていいほど友達がいなかった。


話す暇さえあればベースに打ち込んでいたし、ずっとヘッドホンをつけて音楽を聴いていた。


たまに体育倉庫から盗んだテニスボールを指の間に入れストレッチもしていた記憶もある。


察しの通り、俗に言う「話しかけんなムード」を漂わせていた俺からは自然と同級生たちは離れていった。


やがて月日は経ち、クラスには卒業ムードがやってきた。


ただ、俺には全く関係なかった。


高校でまともにやってきたことがなかった俺は、卒業が近づいても何かをするとか、後悔するとか、そんなのは一切なかった。


そんな高校生活を送っていた俺にとって、友達というのは、当たり前ではないのだ。


俺は日頃全く機能しないカラカラの脳ミソをフル回転させ、一日中考えた。


これからどうしていこうか、どうしたら満足できるのか、そもそもバンドやらない方がいいのか、俺は音楽に浸かりすぎているのか。


いろいろ考えた結果、初心に帰って、近くのライブハウスにチラシを貼ってもらうことにした。


早速俺はチラシ作りにかかった。


歩いて10分のところにある100円ショップで少し大きめの紙(他のチラシに埋もれると拾ってもらえないから)を買い、黒の太いペンを買い、その他にもあれこれ必要なものをカゴに入れ、会計に進んだ。


まさかの合計550円だった。


安すぎる。


やっぱり日本、大好きだ。


そうして感動した俺は家に帰り、早速、買ってきた大きめ紙に黒ペンでつらつらと書いた。


「バンドメンバー募集中!(ギター・ドラム募集)

加入条件:なし ロックに対する愛がある人を探しています!

電話番号:080-○○○○-○○○○」


俺は頭が悪いおかげで、ここまで書いたところで書くことがわからなくなってしまった。


だから、余った空白のところに、よくわからない鳥の絵を描いておいた。


我ながら力作だと思う。


そしてそのチラシを丸めて、若干脇に抱えて、近くのライブハウスに歩いていった。


ライブハウスに到着し、よく見た階段を降り、オーナーに貼ってもらうよう、許可を取った。


許可を取った俺は、書いたチラシを貼るわけだが、目立たなければ意味がない。


俺はさっき100円ショップで買っておいた、赤の缶スプレーを手に取り、カチャカチャ振りながら、壁に貼ってあった他のバンド募集のチラシに吹き掛けた。


そして壁一面真っ赤にし、壁のど真ん中に書いたチラシを貼った。


圧倒的に目立っていたが、さすがやりすぎたかと思い、急いで階段を駆け上って地上へ出た。


他のバンドを潰してしまった罪悪感もあったが、なんだかスカッとした気持ちになった。


帰り道に吸う空気が、田舎のような、やけに落ち着く味だった。


チラシを貼ってから2〜3週間ほど経った。


なんとか散歩をしたり、ベースの弦を変えたり、ピックを大量購入(まとめ買いで安く)したりと暇つぶしをしているものの、一向に連絡が来ない。


あのオーナーめ、絶対俺チラシ剥がしたろ。


次見かけたら背中に蹴り入れてやろうかな、、と頭によぎったが、あんな派手に壁一面真っ赤にしといて剥がされないわけもない。


普通にカッコつけずに貼ればよかった。


ちょっと後悔した。 次から気をつけよう。


かと言って連絡が来ないのは大問題である。


バンドを結成させないとライブができない。ライブができないということは収入がない。収入がないということはベースを売らないといけない。売った金を使い果たしたら一文無しまっしぐら。一文無しまっしぐらになるということはアパートを出ないといけない。アパートを出るということはホームレスデビューだ。


もうどうしようもない人生を歩むことになる。


しかしこれだけは避けたい。


でも何かできるわけでもない。


ただ俺はひたすらに連絡を待つしかなかった。


そんなこんなで、1ヶ月経ってしまった。


貯めていた貯金も底をつき始めていた俺はコンビニでバイトを始めた。


時給がいいわけではないが、金が入らないよりはいい。


暇な俺はほぼ毎日コンビニでバイトをし、夜遅くまで働いた。


当然、ベースに構ってられる時間も少なくなっていき、今ではベースをケースにしまったまま部屋の隅っこに立てかけてあるだけだ。


ただ、コンビニでバイトをしてもどうしても満たされない気持ちがあった。


それを満たしてくれるのは、音楽だ。バンドだ。ベースだ。


音楽はいつしか、俺の生き甲斐になっていた。

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四本針金に喰われたい ましまろのきもち @mashimaronokimochi

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