第2話 8章〜10章

8.章 受胎告知じゅたいこくち セカンド デイ 残り2日。




Second DAY─セカンド デイ。


ゲームオーバーまで残り2日。




まだ、残暑の残る、初秋の夜。


虫の声も未だ止まず。


カリナ•オルデウスは自室のベットの上で、苦しい夢にうなされていた。



─カリナ•オルデウス。聞こえるか?

もうすぐ、お前の中の生命が、お前のみやに根づく頃だろう。そうすれはカリナ•オルデウス、お前は強大な魔力を持つ魔女に生まれ変わるだろう。



しかるのち、いま一度、封魔の法陣へ訪れよ。

そうすれば自ずと未来も見えてこよう。

カリナ•オルデウス、我は待つ。



目を覚ますと、夜中の1時の鐘が、低く響いている。わたしは音もなく、身を起こすと、歩き始める。


こんな夜更けに出歩いていては、家人や召使に、みとがめられるだろう。しかし不思議とそのような心配は、心に浮かばず、ただ夢遊病のように裸足のまま、ひたひたと歩き続ける。



幾重にも、重ねて刻まれた、封魔の魔法陣。

その中心には封魔の呪術が刻まれた、魔鎖まさすが千切れて打ち捨てられている。



魔王は─いない。何故だろうと、方陣の中で見回している。



─どうした。なにをぼんやりしている。



声をかけられて振り向くと、そこには魔王がいた。



屋敷の地下深く、魔力でできた13階層にもなる、石造りの広大な祭場さいじょう



封魔の法陣にたたずむ、わたしと、魔王。



短めのプラチナブランドの髪に白い肌。短髪の髪からのぞく、黒い下向きの羊のようなつの、これが彼を魔族たらしめる。



右耳には黒いイヤーカフ。真っ黒な装束に長いマント。手は黒い短めの手袋がはめられ、長いまつ毛の奥にある銀色の瞳は、なんだか怒っているみたい。



『背はわたしより高いけど、小柄…。


すこし…若いというか、……子供…?もしかして、わたしと変わらない?』



それでも魔王の顔は、恐ろしく整っており美しく、おとぎ話の王子様のように見えた。



ただ、首筋と手のひら、舌先に入れている、漆黒の法術のタトゥーがおとぎ話の王子様ではない事を物語っている。



「まさか、魔王様…ではないですよね。」



─我を見間違えるな。



魔王はカリナをとがめた。



『魔王様…なんと言うか、


失礼ながら、失礼ながら、


なんというか、


なんだか……弱そう…。』



魔王にムキムキマッチョでがっちり大柄な、イメージを期待していたカリナは、こころ密かに失望していた。



理想と現実のギャップにひとり絶望し、打ちひしがれていた。



『なんだか…思っていたのと違う…。』



─こうして、わたしの魔王様の第一印象はなんともるわないものだった。





9.章 復讐への決意




『なんだか、魔王様…弱そう。』



失意の底に意識を持っていかれ、

魔王を前にして、挨拶も忘れている。



「カリナ•オルデウス、聞いているのか?」



わたしは話しかけられ、ようやく我に返った。わたしは、うやうやしく挨拶すると魔王様に尋ねる。



「ずいぶんお若いのですね、魔王様はおいくつであらせられますか?」



「我は若いのではない。長い年月の眠りで、いまは魔力が一時的に縮んでいるだけなのだ。」



『あれ、なんだか、おかしい魔王様が、こっちをみない。どうされたのか、目をそらされる。そういえば、お顔も紅潮こうちょうされておられるような。』



ご病気でしょうかと、顔を近づけると露骨に避けられる。



「もしかして、…魔王様、何か照れてらっしゃいますか?」



それを聞いて、なぜか、魔王は焦りだす。



「我がなぜお前ごときに、恥ずかしがるのか、立場をわきまえろ。


貴人きじん尊顔そんがんを、凝視する事が、失礼にあたると何故、気付かぬのか。」



それを聞いて、カリナ•オルデウスは恐縮しきりで、深く謝罪した。でもなんだか釈然としない。


まぁ、でも何か恥ずかしがるような心当たりもなく、カリナ•オルデウスは考え直した。



「お前は、そもそもなんとも思わないのか、その、あれをして。」



カリナは魔王が片手で紅顔を隠して、ボソボソと呟いた事に気付かない。



きっと魔王様も目覚めたばかりで、体調がよろしくないのかも知れない。カリナはそう考える事にした。



カリナ•オルデウスは気づいていない。魔王とのちぎりの際なにがあったのか。



そして魔王にとってもまた、ソレが初めての経験だった事を。





魔王は自らの手首に触れながら、かつて自分を捕らえていた、封魔の鎖をいちべつする。



─解せぬ。これは何かがおかしい…。



今度は、封魔の魔法陣を観察する。注意深く見る事で、ある事に気づく。

魔王は眉根まゆねを押さえて、考え込む。



『これは魔法陣が書き換えられている。このような事が出来るものは、我を除いて、そう多くはあるまい…。』



何故、カリナ・オルデウスが魔力を送る前に、かせが緩んだのか。



『何者かが、カリナが封印を破る前に、我の封印を解いたとしか、思えぬ…。』



魔王はそこまで、考えると、カリナを見返してう。



「これからどうするのだ。」



カリナから、さっと表情が消え、ゆっくりと呟く。



「復讐を」



そう言って魔王を見つめた。

 





─しかるのち



カリナ•オルデウスと魔王は、オルデウス邸のカリナの私室にいた。



「なるほど、ここがお前の部屋か…」




「はい。お手間取てまとらせて、すみません。」



「もうこの国には、いられませんので、出来るだけ処分をしようと思いまして。」



「しかし、すごい読書量だな。」



魔王はカリナの蔵書量ぞうしょりょうや積み上げられた、研究資料に感心している。



「それによく研究してある。知識もカンストしているようだ。」



そう言いながら、カリナの書いた、論文などに目を通す。ペラペラとページを巡りながら、やたらと真剣に読まれている。



カリナはあまりにも、恥ずかしくて、申し訳なくて、変な反応をしてしまう。



「す、すすす、すみません。なんだか、独りよがりな、研究で…」



「いや。お前はすごいな。なかなかできる事ではない。」



その言葉に、カリナは真っ赤になって照れてしまう。




『どうして、あんな失礼なこと思ってしまったんだろう…』



先程の非礼で短慮たんりょな、魔王に対する感想を深く恥じた。



「そんな…褒められたのは、生まれて、は…はじめてです。」



「みんな、わたしのすることは無駄だって言われてましたから。」



そう言って自分で、あははと、苦笑した。



魔王は急に真顔になり、カリナの顔を間近にみる。



「なぜ、自分を過小評価する。この世の中は正しい事は正しいし、間違っている事は間違っている。ただ、それだけのことだ…」

 


カリナは、それを聞くと、なぜか涙がぽたぽたと、垂れてきてしまうのだった。




「ははっ…。そうなんでしょうか」




「今まで、家族から、わたしなんて、死んでもどうでもいいと思われてましたから…」




「そうか……。」




「だが少なくとも、



これから先、我はお前の味方だ。」




その言葉は、カリナにとって、いま一番に欲しい言葉だった。




魔王はそう言うと、また、資料に目を落とす。



『…もう二度と泣かない』



『そして、魔王様の役に立つ、強力な魔女になるんだ…』




カリナは、そう心に誓った。





10.章 炎




晩秋の穏やかな夜、オルデウス家の屋敷は、四方から火の手が上がった。



荘厳そうごんで歴史のある建造物、ぜいを凝らした家具、調度品、それらは、瞬く間に炎に包まれた。



カリナが唯一の憩いにしていた、大好きな庭も東屋も火の手がまわる。



こんな時は、いい事も悪い事も頭に浮かんでくる。



悲しい思い出。辛い思い出。少しだけある、使用人との、楽しい思い出。



カリナと魔王はその光景を眺めている。



『綺麗…あんなにわたしを悩ませた全てが、灰になり消えてゆく。』



カリナの心に複雑な気持ちが渦巻く。



不意に、父と兄、クナガン・オルデウスとシャロン・オルデウスが現れ、カリナたちを見とがめる。



「カリナお前なのか、こんな事をしたのは!」


 

兄、シャロンが引き継いで、尋ねる。



「地下に魔王もいない…!どう言う事なんだ!これはお前の仕業なのか…カリナ!」



カリナ・オルデウスは静かに、表情もなく答える。



「お父様に認められても、もう嬉しくなくなったんです。」



父、クナガン・オルデウスはカリナを責める。



「なぜ、屋敷に火をつけた!お前は従順ないい子だったじゃないか!」



カリナは答える。



「従順だった。どんなに踏みにじられても。でも結局、わたしは家族の温かみを知ることはなかった。」



そう言う言葉がだんだんと怒気どきをはらむ。



「最後は、命までも奪われて」



そう言うと、クナガンとシャロンは、自らの首を手で掻きむしって、苦しみはじみた。



カリナは無意識に力を使い、彼らを殺そうとしていた。



父はもがきながらカリナに語りかける。



「カリナ…誤解だ。お前は父親である、私を冷たく感じたんだろう。


しかし、実際にはそうじゃないんだ。

厳しく躾けなければ魔力のないお前は、生き残るのが難しい、そう考えてのことだったのだ。」



カリナは父の言葉に震え出し、強い怒りの感情がわきあがる。



「わたしだけ、兄や妹たち、他の兄弟たちと違って、お誕生日会やプレゼントが…一度も無かった。


いえ、おめでとうと言う言葉さえ、もらえなかった。…それは何故ですか?」



カリナの言葉に魔力がこもる。



「わたしは、それらが、わたしにだけ無いのを指摘することさえも、許してもらえなかった。」



カリナはそう言うと、怒りが噴き出し、抑えられない。



「家族の団欒だんらんにまぜてもらえず、自室でひたすら、魔術書を読み続けるしかなかったことも、


死んだお母様のブローチが無くなった時に、真っ先にわたしを疑い、きびしく罰したことも。


魔力ゼロなのは、わかりきっているのに、魔法が使えるまで、帰ってくるなと、寒空のもと夜着と裸足で一日中外に閉め出されていたことも。


冷たくされて、それでも顔色を伺いながら暮らした日々も、何もかもが、誤解だと言うのですか?」



カリナの手が震えているのを、魔王は見逃さなかった。



魔王がカリナの肩を軽く触れると、彼女は、はっと我に帰った。



そのおかげで、クナガンとシャロンの首にかかった魔力がゆるみ、彼らはなんとか窒息死から免れた。



「ごめんなさい、魔王様こんなところ見せるはずじゃなかった。」



こんな醜い醜態しゅうたいを晒す必要ないのに、



感情なんて、人間の摂理にとらわれたこと、捨てたはずなのに。



そんな事に囚われたくなくて、魔女になったのに。



魔王は口を開く。



「いや謝るのは我だ、お前の個人的な復讐を邪魔するべきではなかった。


ただ迷いがあるなら、殺すべきではないだろうと思っただけだ。」



魔女になった、わたしの復讐に迷いなんて…



ではと、魔王は問いかける。



「ではなぜ泣いている?」



『あれ…なんで泣いているんだろう。


もう泣かないって決めたのに。』



ごうごうと猛烈に燃える、屋敷を背に、カリナは家族に最後の挨拶をする。



「お父様、もう魔王も屋敷も、この家にはなくなりました。これで、オルデウス家の権威けんいはおしまいでしょう。」



「さよなら、お父様、お兄様、ご機嫌よう。」



カリナはそう言って燃えさかる、屋敷を前に、ぼう然とたたずむ家族に、永遠の別れを告げた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


あとがき



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