第3話 11章〜13章
11.章 はじまる前の物語
─全てが始まる前の物語。
わたしは魔法の本が好きだ。
本を読んでいると、
聞きたくない声が、きこえなくなるから。
父「またカリナはひとりで、魔法の勉強か?家族の集まりに出てこないとは、けしからんな。」
妹「お姉さまは、わたし達への当てつけで勉強なさってるのよ」
兄「俺たち家族の
一同「魔力ゼロなら、そんなこと、しても無駄なのにね」
家族の
わたしは魔法の本が好きだ。
本を読んでいたら、
考えても仕方がないことは、考えなくてすむから。
これは、わたしカリナ・オルデウスが転生をする前の話し─。
12.章 王太子妃候補生
120
ゲームオーバーまで残り120日。
王宮の祝宴の間において、王太子妃候補生たち13人は
─緊張の瞬間。
王妃が高らかに宣言する。
「この度、13人の婚約者候補の中から、カリナ•オルデウス嬢を正式な次期王太子妃として、選ばせていただきました。」
急に注目をされて、カリナ•オルデウスは我に返った。
周りにいる王太子妃候補の娘たちも、口々におめでとうを言い。
『嘘…どうして、わたしが…』
隣にいる、同じく王太子妃候補生の友人、ローレライ・ローレンスも嬉しそうにこちらをみている。
「カリナ、少し悔しいけど、完敗よ。」
友人のローレライとは、お妃候補生として切磋琢磨してきた仲だった。
「ごめんなさい。わたしなんかが選ばれてしまって。」
カリナ•オルデウスは気弱に答えた。
「選ばれて当然よ、全力で勝負したんだから悔いはないわ。今度、謝ったら口をきいてやらないから。」
ローレライは、そう軽口をたたいた。
「ごめんなさい…。」
カリナ•オルデウスはますます恐縮してしまう。
「もう、馬鹿なんだから!」
そう言うとローレライはカリナを
それでも、カリナは暗い顔をしている。
『わたしは卑怯者だわ。本当はお父様とお兄様に褒めていただきたくて、お妃候補の試験を頑張っていただけだもの…。』
─翌朝。
王立高等魔術学校。王家の子息や有力貴族の令嬢が魔法の勉学に励む学舎。
カリナ•オルデウスは複数の生徒に囲まれている。
カリナと仲の良い令嬢は、彼女を褒めちぎる。
「さすがはカリナ•オルデウス様、おめでとうございます。私は絶対、カリナ様が選ばれると思っておりましたわ。」
他の令嬢も続く。
「やはり王太子妃の座を見事に射止められましたね。カリナ様はとても、ご聡明で、美しくあらせられるのだから、当然ですよね。」
たいして仲良く無い令嬢もここぞとばかりに、カリナに話かける。
「私はカリナ様のファンですの、ぜひお近づきになりたいわ。」
それを聞いて、友人のローレライが近づいてきた。
「もう学校にバレちゃったのね。」
「でもわたし誇らしいの。カリナがわたしの一番の親友でお妃様になるんだもの。」
カリナはうつむき、浮かない顔だ。
「そんな、たまたま運が良かっただけよ。」
そう言ってカリナは謙遜する。
「そんな事ない、カリナはいつも遅くまで王室図書館に通い詰めて、頑張って勉強をしていたじゃない。だから、結果は当然。」
そう言ってローレライはカリナを勇気づける。
わたしが次期王太子妃に。皆んなが喜んでくれる。だけど─。
オルデウス家の屋敷にて、カリナ•オルデウスは父親のクナガン・オルデウスの書斎に呼び出されていた。
オルデウス家、自慢の庭を見渡せる、大きなガラス窓の前で、カリナの父クナガン・オルデウスが威厳を持って待ち構えていた。
「お父様どのようなご用事でしようか?」
カリナは恐る恐る尋ねる。
子供の頃から、カリナがここに呼ばれる場合はたいがいが、お叱りであり、昔からカリナにとってこの部屋は恐怖の部屋そのものであった。
父、クナガン•オルデウスは、がっちりとした巨漢の男であり、この家の暴君でもあった。彼はカリナを見下ろし口を開いた。
「カリナよ。よくぞ、次期王太子妃に選ばれてくれたな。
私はお前はいつかこの家の名誉を誰よりも盛り立ててくれると信じていたぞ。」
父は一息ついてこう続ける。
「今までお前を
お前はこれまで、わたしと兄の期待に沿って、ずっと頑張ってきたんだからな。…本当にすまないと思っている。」
そういうと、父は娘に深々と頭を下げた。
これまでは、幼少期の頃より父や兄から、魔力のないカリナは、取るに足らない落伍者と下げずまれてきた。
そんなカリナ•オルデウスとって、これは何よりも嬉しい出来事だった。
『お父様が謝ってくれた。
ずっと頑張ってきた事を認めてくれた!
嬉しい。とっても嬉しい。』
カリナのそんな浮かれた気分も一瞬で消えてしまった。
『でもやっぱり、このままでは、いけない。
正いことではないわ…。』
『はやく王太子リアル様に、王太子妃候補の辞退を申し出なくては…。』
カリナ・オルデウスは決意を形にするため、
王太子リアルの屋敷を訪れた。
急な訪問だったが王太子リアルは快く迎えてくれた。
彼はやや緊張したような、改まった面持ちで、カリナ•オルデウスを迎えた。
彼はカリナの手を取ると、優しく微笑んだ。
「君から会いに来てもらえるなんて、とっても嬉しいよ。」
王太子リアルはそう言うと、彼女を見る。
カリナは意を決して、次のように述べた。
「わたしは、お妃候補を辞退しょうと思っております。」
王太子はこれを聞いて、一瞬、驚いたような、悲しげな表情に変わった。
カリナが胸の前でぎゅっと結んだ手に力が入る。
「わたし、本当は、父や兄に褒められたくて、お妃候補の試験に挑んでおりました。」
カリナの告白はなおも続く。
「でも、わたし以外の王太子妃候補の方々は、みんな真剣に、この国と陛下ためを思い。お役に立ちたいと取り組んでいました。」
カリナの必死の訴えは続く。
「一方、わたしは家族に褒められたくて、自分の利益だけで、王太子妃候補の試験に挑戦していました。
わたしの志しは、彼女たちに比べてとても低く、恥ずかしかった。このような人間が、とても陛下の婚約者が務まるとはおもえません。」
「このような勝手が許されるかは分かりませんが、婚約を辞退させていただく事は出来ないでしょうか?」
そこまで、一気に言ってしまうと、彼女は黙った。もしこの事で処罰される事があれば、カリナは甘んじて受けるつもりだった。
王太子リアルはカリナに微笑みながら、優しく諭す。
「よく話してくれたね。でも僕を嫌いになったわけじゃなくて安心したよ…。」
そしてカリナの手を取って、こう続ける。
「君はとても誠実で正直なんだね。」
そう言って、王太子は悲しそうな顔でカリナを見つめる。
「でもね出来れば、王太子妃候補を辞退しないで欲しい。」
王太子はぎゅっと握り込んだ、カリナの手を解く。
「僕はねカリナ、君がいいんだ。」
王太子は彼女の頬に優しく触れる。
「君でなければ、ダメなんだよ。」
カリナは少し驚きながらも、気恥ずかしく、下を向いてしまった。もうまともに、王太子の顔を見られない。
「だから…カリナ、そんな事を。王太子妃を辞退するなんて言わないで欲しい。…お願いだ。」
王太子はカリナに懇願する。
その言葉に彼女は小さく答えた。
「…はい。」
王太子はそんな、カリナの頬にそっと触れ、瞳を覗き込む。
カリナの震える唇は王太子と重なる。
「僕は君を信じてる、だから君も僕を信じて。」
2人の影はひとつになり、お互いの想いを交す。
バルコニーの柵の外には王宮の庭園。
木立の葉はざわめき、夏も終わりが近づいている。
13.章 最終試験
王宮の祝宴の間において、最終試験の課題が発表された。
そして王妃、自ら直々にこの試験の説明を行う。
「それでは最終試験の内容を伝えます。
ひとつ、王太子リアルの婚約は王太后様、つまりリアルのお祖母様の、王太后メアリー様の
そのため王太后様の
名誉ある、王太子妃候補の最終試験をまえにしても、カリナ•オルデウス浮かない顔をしていた。
『─王太子リアル様はああ言われたけど、わたしなんかに、王妃が務まるのだろうか?』
王妃はそんな彼女を心配して特別な声をかけた。
「カリナ•オルデウス、不安なのかしら?確かに王太后様。─リアル王太子のお婆様は、とても気難しい方よ…」
そう言って王妃はカリナの手を取った。
「はい。心得ております」
それでもカリナは気弱に目を伏せている。
王妃は最終試験に不安を感じているのだと思っていたが、そうではなかった。
カリナ•オルデウスは自分の胸の内を王妃に吐露する。
「王妃様、わたしなどに王太子妃が務まるのでしょうか?」
王妃は少し考えて、こんな話しを始めた。
「私の秘密を教えてあげるわ。実はね、私が今の国王陛下と結婚する際のこと。
まだ私が王太子妃候補生だったころ、同じ最終試験に挑んだことがあるのよ。
でもね、結局、試験は失敗。私は王太后様に大変、嫌われてしまったわ。」
そう言うと王妃は少しいたずらっぽく、笑った。
「だから私も王妃失格ってわけ。」
王妃はふふっと微笑みながら続ける。
「それでも、国王陛下は私を王妃に迎えてくださったの。」
王妃はカリナの目をしっかりと見つめて、言った。
「リアルから聞いているわ。あの子、貴女のこと、とっても気に入っているみたい。」
カリナはその言葉を聞いて、いくらか心が安らいだ。
「肩の力を抜きなさい、試験に挑む事も大事だけど、それ以上に、ふたりの愛の方が大切なのよ。」
王妃はカリナを元気づけるように続けた。
「リアルは、あなたを信じてるから、きっと大丈夫よ。」
そう言って王妃はカリナ•オルデウスに微笑んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あとがき
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