魔力ゼロの悪役令嬢が 最強の魔女になれたのは、優しい魔王さまの嫁だから

@koizukimirin

第1話 プロローグ 1章〜7章


「 神様に見捨てられたのなら、


もう、魔王様にすがるしかない…」





1.章 プロローグ




わたし、カリナ•オルデウスは侯爵令嬢として生を受け、16歳まで生きてきた。




侯爵家として、最強魔術師の家系に生まれながら、わたしは、まったく魔力を持つことなく生まれてきた。




この家で魔力以外の価値判断など、ないというのに。



『役立たずの、わたし。無力なわたし。』



『家族にとって、死んで─当然のわたし。』




オルデウス家─。

王家から代々、まかされた封印を守るべく、存在している、古代から続く名門の家系。



代々、強い魔力を濃い血統で守り、受け継いできた一族。



なぜ我が一族、オルデウス家は長きに渡り、名門たりえているのか─。



はるか昔、古代の魔王を封印せしめ、それを今現在まで守り、封じる役目を粛々と生業としてきたからだった。 




─そう、我が家の地下には秘密がある、  


封魔ふうまのくびきに繋がれし、いにしえの魔王。今なお、封じられ眠っている。




『─わたしは、知っている。



そう、家族でわたしだけ。



わたししか知らない、魔王の秘密。』



この魔王の子種こだねを身に宿すことができれば、強大な魔力を持つことが出来る。



誰にも虐げられない、誰にも収奪されることのない。大いなる力が手にはいる。



そうなればもう、



誰にも、わたしの命を、生き方を、奪われたりはしない─。




目をつむると、5歳のころ。子供の時のつらい記憶が蘇る。



「お父さま、みてください。こんな難しい魔法学の本が読めるようになりました。」



わたし、カリナ•オルデウスは、そう言って、高等魔法大学向けの、魔法学の本を誇らしげにみせた。



父は、わずらわしそうに、カリナを一瞥する。



「なんだその程度で得意になっているのか?くだらないことで、呼び止めるな、恥を知れ。」



つぎに、妹のリリア•オルデウスが話す。



「お父さま、みてみて、リリアも小さいけど、炎が出せるように、なったのよ」



「おー!!すごい。リリアは将来、偉大な魔法使いになれるかもしれないな。」



そう言うと今度は、カリナにお叱りがとぶ。



「カリナはもう少し妹を見習い、魔法を練習しろ。」



カリナはくるりと背を向けると、本を抱きしめ走り出す。



「なんだ、カリナは本当にかわいくないな。妹のリリアと違って素直じゃないし。」



カリナはもう何も聴きたくないと、もっと足早に駆ける。



そうして、書蔵室しょぞうしつに逃げ込むと、本を抱きしめ、人知れず涙をぬぐうのだった。








2.章  断頭台の前 ゲームオーバー 残り0日。




GAME Over .


ゲームオーバー 残り0日。





11月、灰色の空は低く、陰鬱としている。



空気は刃のように肌を刺しピリつく。



深く息をすれば肺さえも凍りついてしまいそうな、そんな日…。



わたしは断頭台の前に引き出された。

もうすぐ、カリナ•オルデウスは死ぬのだ。



王太子妃にと望まれた、婚約も、なにもかもが虚しい。

王も王太子も、婚約破棄の違約金を惜しんで、ありもしない不貞ふていをでっち上げ、わたしを殺すのだ。



もう、すぐ、わたしの意識、16年間連続して続いてきたカリナ•オルデウスの意識は消える。



永遠にこの地上から。



もう、今日の夕日をわたしは見ることさえ、許されない。少しの寂しさ、それもすぐに消えて無くなる。



もう一度、垂れ込めた、厚い雲を眺め、息をつく。もう太陽を見ることは叶わない。



でも、大丈夫、これから、もっともっと高いとこにろに昇っていくのだと、その時に輝く太陽が見られるはず。そう自分に言い聞かせた。



一羽の鳥が、垂れ込めた空を横切りながら、わたしの頭上を飛んでいく。



カリナは、それを寂しく見つめていた。



『誰にも捕まらず、お前は自由に遠くにいくんだよ…。』



そう呟き、その息も白く、細く流れた。



断頭台の刃にも朝霜が降りている。願わくは、滞りなく、痛みなく死にたい。



刃がしもで、なまくらになっていませんように、わたしは懸命に神に祈った。たくさんの困難を与えた神に、それだけは、それだけはと願った。



処刑執行人はわたしの名前を一字一句間違わす読み上げた。



ああ、もうだめだ、わたしは前に進みでた。



最後の瞬間、元婚約者の王太子に目をやる。



彼はわたしから目を逸らし、こちらを見ようともしない。



『さよなら、王太子様。愛なんて、不毛で下らない、御伽話だと教えてくれて、ありがとう。』



首をかせにかけたら、もう目を瞑るしかない。



『いまごろ、お父様とお兄様は不出来なわたしを恥じて、腹を立てているはず。』



愛なんていう不確かなものを求めて、他者に命運を握らせるようなことは、もう二度としない。



さよなら、みんな、家族も、誰も味方なんていなかったんだ。



寒空さむぞらの元、一羽の白い鳩だけが、いつまでも、いつまでも、心細く飛んでいた。





3.章 逆向転生 ファースト デイ 残り3日。





First DAY─ファースト デイ。


ゲームオーバーまで残り3日。




気がつくと、わたしは空を見ていた。



初秋の柔らかい太陽。我が家の庭園。落葉樹があかく色づいていていて、美しく、、?



ここは王宮の処刑場しょけいじょうでは無いの?



カリナが動揺して、東屋あずまやの机に目を落とすと書きかけの日記がそこに。



─DC225.October10月 .13の文字。



わたしが…無実の罪で逮捕される。─3日前の10月13日に戻っている。




手首にはなぜか、砕けた、ブレスレットがはまっている。



─これは輪環りんかんの腕輪。死してもう一度、人生をやりなおすことができる、太古の昔に存在したという、秘宝中の秘宝の腕輪。



なぜこれがわたしの手の中に…。



─わたしは首を振る。そんな事どうでもいい。



きっとこれが最後のチャンス。もう一度だけ運命を変える事が出来る。



なんとしても─。



絶望の運命から、逃れる方法を探さなくてはいけない。



もし選択を間違えれば、わたしは、またあの断頭台の前に立たされる。



逮捕の3日前─たったの3日前…。



一刻もはやく、今すぐ、逃げ出さなくては。



『いいえ。…今すぐ逃げても、きっと女の足では、すぐに捕まってしまう。』



もう全てを無かったことにできるほど、時間はない。



それでも…諦めない、諦めたくない。



─わたしの頭は、ある事を思い出して、すうっと覚醒した。



何があっても、例え、人を殺す事になったとしても、わたしは過ちを繰り返さない。



絶対に、裏切られて、おとしめられても、悔し涙はながさない。



必ず、生き残って見せる。



その為にはもっと、知恵を絞って、そして思い切った手段を取らなければいけない。



その為には─。






4.章 魔力ゼロのカリナ




わたしはカリナ•オルデウス。

生まれつき、魔力をほとんど持ち合わせていない、失敗作のわたし。



そんな、わたしは子供の頃から、魔術書を読みふけり、魔術を研究していた。



それは少しでも、家長であるお父様、お兄様のお役に立とうと、奮闘していたからだった。



とりあえず屋敷中の魔術書、秘術中の秘術を記した本を読みあさった。



それが終わると、今度は王室の国家図書館の閲覧制限のある魔術書を、オルデウス家の権力を使ってどうにか読むことにも成功した。



そしてわたしの、探究は留まる事を知らず、世界に散らばる、失われた古塔に、残された魔導書を探し求めた。



とにかく、貪欲に知を求めた。─どうしても欠けてしまう、実を補うために。




図らずも、王室図書館に出入りする事で、王太子付きの教師の目に留まり、なぜか王太子妃にと、婚約者候補に名を連ねることになってしまった。



王太子の婚約者候補に自分が選ばれた時は、夢のような話と浮かれていたのが、今となっては悔しいくらい。



もう昔話しは、やめよう。胸のあたりに苦いものが、こみ上げてくる。





5.章 魔王との接触




昔の事を知れば知るほど、我が家の地下に眠る、魔王がいかに人類に厄災をもたらしたのかを思い知らされる。


そして平和になった今、魔王の脅威はすっかり人々に、忘れられている事も。




我が家の屋敷の地下深く。

魔力でできた13の階層と13の門のその奥─。



封魔ふうまの魔法陣が何重にも敷設ふせつされた祭壇、その中心に魔王が眠っている。




全身に黒づくめの装束。黒手袋に黒マスクで顔全体を覆い、長いマントの端は溢れ出る魔力にヒラヒラと、たなびいている。



一切肌の露出もなく女なのか男なのか、それすら分からない。両手、両足は、封魔ふうまの呪術が刻まれた鎖で、繋がれている。



魔力の無いわたしでも─分かる。ビリビリと毛が逆立つような圧。圧倒的な魔力が未だに溢れ出ている。



世界にちらばる、打ち捨てられた古代の塔─そこに残された古代の記述。



いにしえの魔王は、女を攫い、自らの子種を宿し、孕んはらだ女は魔女となり世界各地でさまざまな、災厄さいやくを撒き散らしたとある。


魔王そのものはもとより、この魔女や魔王の子供たちが強力な軍勢となり世界に破滅の危機をもたらした。




わたしはぐっと息を吸い、覚悟を決めていた。


『この魔王の子を孕めれば。魔王の子供の強大な魔力を腹に宿すことができれば。とてつもなく強力な魔女になれる。』



父や兄、家族の求めに応じて、貞淑ていしゅくな、淑女として、育てられたわたし。



令嬢として、恥ずかしくない振る舞いを叩き込まれ、それが自分なんだと信じてきた。



そんな優等生なわたしが、おおよそ、恥知らずの色情狂しきじょうきょうとしか、思えない、魔王の情婦じょうふになるという狂行─。それをするなんて、今までなら考えられない。



でも、わたしは…もう、ためらわない。



無力なために、抵抗できず、力なく踏みにじられたりしない。



わたしは封魔の魔法陣の中心に歩みを進めていく。






─誰だ。なぜ我に近づく。



胸の奥に響く、音の無い声が聞こえる。



「魔王様、私は貴方様を助けに、馳せ参じた者でございます。」



─助けなどいらぬ。人間よ死にたくなければ去れ。



「貴方様はこの様な所で囚われて、ご不満ではありませんか?」




─我には分かる。お前は我を封じた、オルデウスの者では無いのか?なにを企んでおる。



わたしは少したじろぎながら、言葉を続ける。



「はい。仰せの通りでございます。ですが私は…オルデウスを、心から憎む者でございます。」



─なるほど。みたところお前は魔力がまるで無いように見えるが。封魔の結界をどうするのだ。




「それは、貴方さまの─。」





6.章 メンツ




 2ヶ月前─カリナ•オルデウスは、国王から王太子リアルとの婚約破棄を受け入れるよう、命じられた。



この婚約破棄に、強力に反対したのはわたしの父と兄、クナガン・オルデウスとシャロン・オルデウスだった。



初めこそ、父と兄はわたしを愛してくれていて、いきどおっているのだと、心密かに嬉しく思っていた。



しかし、それは婚約破棄の違約金を釣り上げるための芝居だと気づくまで、さほど時間はかからなかった。



いつまでも、いきすぎた王室批判を続け、婚約破棄を反対する姿に、わたしは次第に恐怖を感じはじめていた。



わたしがそんな事はいけない、王に謀反むほんを疑われますと、父、兄に意見しても一向に王室批判は改められなかった。



それほどまでにオルデウス家は慢心し、魔王の封印にあぐらをかき、驕り高ぶっていたのだった。



とうとう父と兄は、魔王の封印解除をちらつかせてまで、婚約破棄を反対しはじめた。



そこまで来ると、苛烈な王の怒りを買う結果となり、王は魔王に対抗するため、強力な魔術師軍団を結成すると宣言した。



父も兄もあれほど、婚約破棄に反対していたものの、魔王に対抗するため、強力な魔術師軍団を結成されたとあっては、もう魔王の封印を解くなどという愚行をちらつかせる事はできなかった。



なんと言っても、古代から封じられた魔王が昔のような魔力が残っているのか、そもそもまだ魔王が生きているのか、現状それすらわからない状態なのだ。



もしあっけなく、魔王が倒されてしまったら、そんな事があっては家門かもんの一大事。



我が家の強大な権力の源泉は、魔王を封じている事、その一点に留まるからだった。



とはいえ体面もあり、父も兄も振り上げた、拳をいまさら下ろす事も出来なかった。



それは王とて同じであり、例え強力な魔術師軍団といえど、本当に魔王に通用するのかは、半信半疑であり、もしまかり間違って、魔術師軍団が負ける事があれば、再び魔王によって世界の滅亡の危機がもたらされる。



王はそのような、疑念に頭を支配されていた。



つまるところ、お互い魔王を脅しの材料にしたものの、実際に魔王をどうこうしようなどと本気で考えているわけではなく、ただ相手より優位に立とう、家勢を強めようという欲望以外の何者でもなかった。



こうなってくると、わたしの婚約自体が煩わしさのタネであり、無かった事にすることがお互いの平和だと両家が手打ちをするのに時間はかからなかった。



どのような密約になったのかは定かではないが、はじめに魔王を持ち出した、オルデウス家が悪いとみなされ、一方的に泥を被る事になった。



つまり婚約ごとわたしの命を消し去れば、オルデウス家の謀叛むほんは罪に問わないという手打ちが行われたのだった。



これで王家は婚約破棄のための莫大な違約金を支払わなくて良くなり、オルデウス家は婚約破棄された、魔力の無い妹をやっかい払いできる。



どうせ婚約破棄されれば、他の貴族との縁組も難しくなり、家でちるまで妹を飼い殺さなければ、いけないからだった。




7.章 2度目の死




オルデウス家の地下13階層の下に古代の魔王が封印されている。



そして今、わたし、カリナ・オルデウスにより封印は破られるのだ。



家宝─業魔ごうまの指輪、廻天かいてんの腕輪、宝珠の首環くびわ…わたしはオルデウス家に眠るありったけの魔法強化の宝玉を、秘密裏に持ち去ってきた。



これで、これだけで、少ない魔力を底上げし、どうにか魔王と繋がらなくてはいけない。



わたしは必死に、魔王に訴えかける。



「─どうか貴方様の、、魔王様の、尊い子種を、我が身に受け賜らせてください。貴方様の子を孕む事をお許し下さい。」



カリナはほとんど、神に祈るように懇願した。



「そうなれば、受け取った生命の魔力により、ここにある強力な封魔の法陣を破り、貴方様を自由の身にする事もかないましょう。」



魔王はしばらく何も答えず、苦しい沈黙だけが場を支配した。



─去れと言ったはずだ。人間のごときが、我の運命に干渉するな。



これが、魔王の答えだった。



わたしはそれでもと食い下がる。



瞬間、カリナはビリつく魔力の圧を感じ取った。それは魔王から発せられた、鋭い殺意だった。



「えっ」



その声と共に、地面にぽとりとカリナの指が落ちた。



カリナは本能的に、驚いて手を見ると、今度は手首が落ちた。次に腕が消え、肩ごと首を切り落とされた。



それらは高速で斬られた様な、鋭い斬撃だった。



魔王は真空の法術でカリナを害し、カリナの四肢はずたずたに切断されたのだった。




そうして、


魔王は嘲笑するように言い放つ。



魔王と取引など可能だと思ったのか?所詮、人間の浅知恵。自らの愚かさを呪うがいい。



カリナの身体は地面に倒れ込み、一瞬、自分の身に何が起こったのか分からない。



横倒しになったカリナの身体から、広がる鮮血。視界がじょじょに赤く染まる。



床に広がる血溜まりがカリナの頬を浸し、生温かく濡らしてゆく。



『…何?何が起こったの?』



今のわたしには、輪環の腕輪はもう無い…。きっと二度と復活は出来ないだろう。



「わたし死ぬ…の?」



どうしよう…選択を間違えた。やっぱり魔王相手に交渉なんて出来るわけなかったんだ。



次第に、身体が痙攣けいれんしはじめ、力が入らない。



『だれか…たす…けて。……?、ん、、何か…今、見えたような?



何か…今、思い出したような。



見たことない、はずの映像が見えたような…。』



カリナは死の間際、走馬灯のような短い夢を見た。



今際いまわきわで、何か、、を思い出した。でも、もう声も出せない…。



「モトノ、…セカイ、キオク。…ケィ…タイ…ィ…ハ…?」



この、カリナの呟きを魔王は聞き逃さなかった。



『─⁉︎…元の世界……だと!?』



魔王の動揺にカリナは気づかない。



「ココ…デモ、ミカタ、イナ…ィ」




カリナ・オルデウスはここまで呟くと、絶命した…。




7.章 ファウスト的な取引




地下の奥底、13階層下の祭壇に魔王とカリナが横たわっている。



目を覚ますと、天井の石壁や揺らめく、ろうそくが目に入った。カリナは驚き、身を起こした。



「わたし、生きている。…でもどうして?」



カリナは横たわる、魔王を見た。



─カリナ・オルデウス。我は気が変わった…。




魔王はそう言うと、押し黙った。



自分が死んで、生き返った事が、カリナは、まだ信じられない。



『ど、どうしよう…?またおかしな事言って、殺されたら。でも…でも、言わないと。』



単語ひとつで自分の命がどうにでもなってしまう、そんな言葉の重みでどうにかなってしまいそうだった。



─話せ。



苛立いらだたしげに、魔王にそううながされて、カリナはこれまでの経緯を包み隠さず、話しはじめた。



聞き終わると、魔王が口を開く。



─なるほど、いきなり出現した、聖女に王太子を奪われ、婚約破棄をされた。



その後の家同士の政治闘争に負けて、お前だけが断罪され殺されたと─。



魔王はさして興味も無さそうに言い放つ。



─なるほど、人間にいては、あるいは悲劇なのかもしれん。だが我からすれば、とるに足らない滑稽話し。


よくあると言えばそうだし、なんとも人間らしい愚かな事だ。



ここにきて、魔王の声にほんの少しの怒気が混じる。



─お前は、こんなくだらない些事さじのために、我を利用して復讐を果たしたいのか?



カリナはここで嘘をついてはいけないと、腹を括った。



「はい。貴方様のお力を借りなければ、哀れな人間のわたしは、惨めな死の命運から逃れる術がありません。」



カリナは言葉を続ける。



「貴方様と契約させて下さい。」



ではと、魔王は問いかける。



─ならばお前の命を未来永劫捧みらいえいごうささげよ。お前は2度と人としての輪廻りんねは叶わず、我と共に地獄を彷徨さまようのだ。魔王との契約には永遠の魂の代償が伴うと知れ。



魔王は少し考えて、さとすように言う。



─くだらん復讐心など忘却せよ。

このまま、冤罪えんざいを抱えて、現世を去り、

お前らの信じる、神の循環の摂理せつりへ帰れ。人のことわりから外れれば、未来永劫、二度と人に戻る事は叶わぬ事ぞ。



魔王はそう言うと、話を閉じた。



復讐を果たしても、わたしは命を奪われる。

いいえ、それどころか、人として死んで、天に昇る事さえも、許されなくなるのだ。


このまま冤罪を抱えて死ぬ方が、まだマシなのかも知れない。…でも。



─我は魔王ではあるが、はかない生命を慈しむ心はもちあわせている。もう帰るのだ、オルデウスの女。そして人として、不条理の現世を生きて去るのだ。



カリナは考える。



もう一度あの断頭台の前に立つ自分。

あの寒い日。冷たい聴衆、目を背ける家族、

むかし、愛した人。



2度と過ちは繰り返さない。



そう呟くとわたしは顔を上げた。



「貴方様との契約のため、わたしの魂を未来永劫、捧げます。」



そう言うと、魔王はほうと、やや意外そうに声を漏らした。



─ならば、我とちぎりを交わすか。 



わたしは、はいと答えた。



それから先の事は分からない。気がついた時にはすでに、全てが終わっていた。



魔王にそばによれ、と言われたのは覚えているそれからが全く覚えていなかった。



気がつくと、自室の鏡台の前にぼんやりと座っていた。もう夕方だろうか。あれは夢だったのかもしれない。



そう思って、自分の腹部を触ると、熱く、ねつを帯びている。夜着をまくると、腹部に黒くくっきりと魔王の呪印じゅいんが刻まれている。



『これは魔族の証…。』



なぜだろう、感情のようなものがスッと消えているのを感じた。



これで人間の摂理から解き放たれたのだろうか。


そしてなぜかその事に、カリナはホッとしていた。



「これで…」



カリナはそうつぶやいた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


あとがき



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