第4話
夕食の席ではじいちゃんとばあちゃんは今日あの3人組が来たことを話題に上げたものの、すぐに帰って行ったことについては何も触れなかった。
父さんは父さんで明日は日本海側へ釣りに行くのだと張り切っていた。
もう期待もしていないけれど、誰も母さんの話をしなかった。
別に母さんが恋しいとか、可哀想だとか、そんなことは全く思わない。
だけど、それは卑怯じゃないのか。という憤りがあった。
自分たちが起こした問題を、息子の前だけその問題を忘れたように取り繕って、ただやり過ごそうとしているなんて。
あんまりじゃないのか。
「ごちそうさま」
とだけ僕は言い残して、会話への参加もほどほどに僕は自室にあてがわれた部屋に戻った。
そして、僕は川への飛び込みについて少し調べておくことにした。
まぁ多分あの高さじゃ死にはしないとは思うけれど。
すると、飛び込みの事故で多いのが水面に浮き上がってこれないことなのだと書いてあった。
叫びながら水へ落ちると肺の空気が抜けて浮き上がるまでに時間がかかるらしい。
だからあの動画で大声を出しながら飛び込んだ翔真はなかなか浮き上がってこなかったし、これ以上高いと浮いてこれないんじゃないかって心配してたんだな。
さらに調べていくと、クリフダイビングというスポーツがあることもわかった。
プールでの飛び込みが高さ10メートルなのに比べてクリフダイビングは27メートル。
紹介ページには、入水時の衝撃は脅威の10G! と書いてあった。が、それがどれぐらいのものなのかは調べてもなかなか見当がつかなかった。
他に分かったのは、どうやら足からの着水、しかもつま先からいくのがよさそうだということと、男の場合は股間を手で抑えて防御するのが良さそうだということぐらいだった。
そうしているうちに、こうして下調べなんてことをしている時点で自分がすごく中途半端なやつなんじゃないかと思ってスマホを手から離した。
電気を消して慣れない布団に入ると、いろんな考えが頭に浮かんできた。
どうして僕は自分から母さんの話題を切り出さなかったのだろうか、と。
自分だって、母親のことから目を背けている卑怯者なんじゃないか。
じいちゃんたちに向けている軽蔑は同族嫌悪ってやつなんじゃないか。
飛び込みのことだって、下調べなんかしちゃって、僕が一番中途半端なことをしているんじゃないだろうか。
母さんは今頃何をしているんだろうか。浮気相手と仲良くしているのだろうか。
もう僕と会うことはないのだろうか。
父さんはこの先どうするつもりなんだろうか。
家はどうなるんだろう、引っ越しすることになるのかな。
裁判とかになるんだろうか。僕も裁判所に行かなくちゃいけないのかな。
……めんどくさ。
あぁ、今ならもっと高い位置から飛んでもいけそうな気がする。
もういっそ、死ぬなら死んでもいい気さえする。
それでいい。
あれ、それでいいのか?
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