第五話・それちょうだい!
腰を痛めて車イスに乗った真田。
未練がましくサラに話しかける。
「魔法とやらはどうやれば使えるのかの」
「サナダにどんな適正があるのか分からんのじゃ」
「適性とは何であるか?」
「どんな魔法が得意かってことじゃ」
「拙者の適性は分からぬのか」
「私には分からんのよ。何か適当にやってみるのも良いじゃろ」
「ふむっ」
目を瞑り考える真田。
しばらくして、静かに目を開き、車イスの肘掛けを握り、唐突に叫んだ。
「行けー! 走れー!」
次の瞬間、車イスが青白く光り、猛然と走り出した。
「おっひょー! いいぞー! 走れ走れ!」
その車イスは原付バイクよりも早く走った。
方向転換もクイックであり、真田の意思を汲み取り自由自在に走り回った。
舞衣は開いた口が塞がらなかった。
「ねぇ、サラぁ。あれは何の魔法ぉ?」
「見た事ないな。付与魔法的なものなのか?」
「いやぁ〜楽しいの〜」
さんざん走り回った真田が戻ってきた。
「サナダ、何を思ったんじゃ?」
「ふむ。拙者腰が悪いゆえ走れぬのよ。そこで、自由に走りたいと思うての、この車イスに走る力を!と思うたのよ」
「やはり付与的なものじゃな」
「じゃあ、他にも応用出来るのかなぁ?」
「武器などにも応用できるじゃろ」
「ならば、我が愛刀【 朱雀 】に」
「真田さん! 無茶しないでください!」
「心配ご無用! 唸れ! 朱雀!」
そう言うと、居合い切りの如く、車イスに座ったまま刀を横に薙ぎ払った。
朱雀から青白く光った半月形の光が飛んでいく。
その光は、木を切り倒しながら飛んで行った。
「真田さん……カッコいいよぉ」
「な、何、さ、真田さんまで魔法使えるなんて……」
「ほぉ〜面白いな。これは使い方次第で強力な魔法になるじゃろ。あれだな、サナダはもうヒノモトブシでいいじゃろ」
「違うって言ってるでしょ」
「ふむ。
「もう、呼び方は好きにしていいわ。ただし、怪物退治はやらないからね。ほら、今日はもう遅いから帰りましょ」
魔法が使えなかった二人を除き、楽しげな笑い声を上げながら帰る一行であった。
そして翌日の朝が訪れる。
「ところで舞衣ちゃん」
「なに?」
「このままだと食材が底つきちゃうよぉ」
元の世界では毎日食材の配達があったのだが、当然この世界までは配達に来ない。
「そうね。水はサラに聞いたら井戸があるらしいし、電気はこの施設ソーラーパネルあるし、問題は食材よね」
「どこかで調達しないとぉ。いつ帰れるか見当もつかないしぃ」
テーブルを挟んで難しい顔をする二人。
何の知識もない世界で食料を調達する方法など思いつくはずもない。
「朝っぱらから何辛気臭い顔しとんじゃ」
そこに、眠そうな顔でサラが現れた。
「食料問題よ。調達方法がないんだから、辛気臭くもなるわよ」
「なるほどな。野菜や果物で良ければあるぞ」
「サラは出来る子だと思ってたわ!」
「無能な自称妖精でも役に立つじゃろ?」
「ごめんなさいサラ様。どうか私めに野菜や果物をお与えください」
「ふんっ、貴様のためじゃない。サナダやハナ達のためじゃ」
サラは腰のポーチから大きな地図を取り出した。
「これがこの辺りの」
「ちょっと待ってサラ」
「なんじゃい」
「そのポーチ何?」
「何って、カバンじゃが?」
「何でそんな大きなものが入るのよ」
「理屈は知らんが、妖精の国では普通に使われとるぞ。これに入れとけば、食べ物も新鮮なままじゃ」
「ちょうだい」
「は?」
「それちょうだいよ!」
サラに襲いかかる舞衣。
必死に舞衣を止める貴之。
「ま、待て待て待てー! カバンならまだあるからー!」
「あら、そうなの? サラありがと」
般若の顔から天使の顔へ変わる舞衣。
「ただし、あるのは家の中じゃが」
「家?」
「貴様らが破壊したあの家じゃ!」
舞衣と貴之が深々と頭を下げる。
「欲しければ、あの中から探すしかないぞ」
「探させていただきます! 貴之くん、行くわよ!」
ダッシュで出て行く舞衣。
廃材の集合体に到着すると、重機の如きスピードで廃材を掻き分けていく。
廃材アタックによる被害に遭わないよう、少し離れた所で作業をする貴之。
「あっ、あったよぉ」
貴之が赤、黄、緑、ピンクのカバンを高らかに持ち上げた。
「やったー! これは今後大いに役立つわよ!」
【パーティーはカバンを手に入れた】
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