第四話・無理しちゃダメ!

 サラにポンコツ呼ばわりされた二人。

 施設に向かってトボトボと歩いて行く。


「まぁ、アレよね。魔法使えないからって困らないわよね。今まで使わなかったんだしね……」


「夢が叶うと思ったのになぁ……。異世界来たらチートで無双状態でしょ……」


「そう気を落とすな。今度祠に連れてってやるから元気だせ」


 笑顔のサラが二人を励ました。

 舞衣が驚きの表情でサラを見る。


「サラが、私に優しい言葉をかけるなんて……」


「貴様はわしを何だと思っとるんじゃ!」


「クソ生意気で無能な自称妖精」


「……かかってこいや、ポンコツ女」


 暗雲立ち込め火花散り、一触即発となっている二人の間に貴之が割って入る。


「二人ともいい加減にしてよぉ」


「あらあら。二人ともケンカは駄目よ。仲良くしないと、ね?」


 ハナさんも仲裁に入ると、二人は臨戦態勢を解いた。


「ハナ様が仰るなら。命拾いしたな、ポンコツ女」


「こっちの台詞だわ」


 睨み合いながら施設に戻る二人。

 深いため息をつきながら後に続く貴之。

 笑顔で楽しそうなハナさん。

 そんな四人を玄関口で待つ人影があった。


「お主ら、こんな時間にどこで何をしておった?」


 長髪を後ろで結び、和装の男。

 腰には日本刀。これぞ侍と言う出で立ちである。


「ん? ここはどこだ? 何やら外が光ったかと思うたら、見た事もない土地におる。摩訶不思議な事もあるものじゃな」


「おっ、おっ、おぉー! ヒ、ヒノモトブシじゃー!」


 瞳をキラキラさせ飛び跳ねるサラ。


「マイ! おるではないか! ヒノモトブシが!」


「違うわよ。彼は真田信玄さなだしんげんさん。陽光園五号室の入居者さんよ」


「いやいや! どう見てもヒノモトブシじゃないか!」


「真田さんは時代劇専門の俳優さんだったのよ。俳優時代が長かったせいか、普段もあの衣装じゃないと落ち着かないらしいのよ。つまり、侍の真似をしてる人なの」


「ん? 彼は偽物なのか?」


「偽物ってヒドイわね。演じてるのよ」


「ジダイゲキやらハイユウとかよく分からんが、ヒノモトブシではないと?」


「そうよ」


 ガッカリと肩を落とすサラ。


「これだけ広ければ思う存分剣を振れるな。寝る前の修練をしておくか」


 そう言うと腰の刀を抜く。

 もちろん、これは模造刀であり、殺傷能力はない。


「あっ! 真田さん! それはお医者さんにに止められて」


 舞衣が言い終わる前に真田が動いた。


「ふんっ!」


 上段の構えから一気に刀を振り下ろした。

 綺麗な円を描き刀が振り下ろされた。次の瞬間。


「うっ! あ痛たたたたたっ!」


 腰を押さえて座り込む真田。


「真田さん、大丈夫ぅ〜?」


「貴之くん! 車イス!」


 ダッシュで車イスを取りに向かう貴之。


「なんじゃ。こやつもポンうぐっ」


 サラの口を塞ぐように、舞衣のアイアンクローが決まっていた。


「サラ。私にはどれだけ言ってもいい。でも、あの人たちにその言葉は絶対に言わないで!」


 真剣な顔でサラを睨みつける舞衣。


「あなたのような長命な人には分からないでしょうけど、人間は歳を重ねる毎に身体能力などが衰える。それは自分ではどうしようも出来ないの。そして、それをとても悲しく感じているの」


 舞衣の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。


「だから、その言葉がどれだけあの人たちを傷つけることになるか、それはサラにも分かるでしょ?」


 舞衣がサラの顔から手を離す。

 サラが申し訳なさそうに舞衣を見つめる。


「すまんかった。悪気は無かったんじゃ……」


「そうだよね。キツく言い過ぎてごめんね」


 そこへ貴之が車イスを押して走ってくる。


「さぁ、真田さんこれに座ってぇ」


 舞衣が車イスを押さえ、貴之が介助して車イスに座ってもらう。


「か、かたじけない……これしきで立てなくなるとはな……」


「先生から無理しちゃダメって言われてたでしょ!」


「すまない。少しくらいなら問題なかろうと……」


「この世界には主治医の先生居ないんだから、気をつけてくださいね」


「この世界? どう言う事だ?」


 ここぞとばかりに貴之が説明モードに入る。

 ここが日本じゃない事、魔法の事、サラが妖精だと言う事、今までに分かった事を全て説明する。

 それを聞いた真田が生き生きとしてくるのが分かる。


「それはあれか? 拙者が出演した『異世界侍〜強すぎて御免!〜』のようなものか?」


「あぁ〜そうだねぇ。そんな感じかなぁ」


「ちーとで最強武士となれるのだな!」


 異世界物を演じた事がある真田は、あっさりと異世界転移を受け入れた。


「では、拙者も魔法を試してみるか!」


 立ち上がろうとする真田の肩を、舞衣が優しく押さえる。


「無理しちゃダメって、言ったわよね?」


「ぎょ、御意……」


 【無理しちゃダメな勇者サナダがパーティーに加わった】

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