第二話・火遊びはいけません!

 施設の窓から飛び出す炎を見て駆け寄る舞衣と隆之。

 玄関を通り階段を駆け上がる。


「隆之くん! どの部屋だった?」


「三号室だと思うよぉ」


 二階に辿り着いたが、どこかから煙が出ている様子はない。

 舞衣は隆之の言葉を聞いて三号室へ向かった。


「大丈夫ですか!」


 扉を開けながら舞衣が叫んだ。

 しかし、そこに炎は無かった。


「あらあら。どうしたのかしら?」


 のんびりと笑顔で答えたのはこの部屋の入居者。

 澤原花江さわはらはなえ。皆はハナさんと呼んでいる。


「この部屋から火が出てるのが見えたんです! ハナさん、大丈夫ですか?」


 ウキウキした顔で舞衣を見るハナさん。

 そして右手を窓に向ける。


「これが見えたのね?」


 そう言ったハナさんの右手から、先程見たのと同じ炎が噴き出していた。


「えっ……? なに? どういう事?」


「お線香に火を点けるのにライターが見当たらなくてね。火が欲しいわって思ったら指から火が出たのよ」


 ニコニコしながら非常識な事を報告するハナさん。

 それを受け止められずに固まる舞衣と隆之。


「それでねそれでね。もうちょっと大きくなったら面白いわねって思ったら、ちょっとだけ大きくなったのよ!」


 ハナさんは楽しくて仕方がないと言う様子で両手を大きく広げて説明している。


「どこまで大きくなるのかしら? と思って試してたとこなのよ」


「隆之くん……、説明してくれるかな……」


「あ、あれじゃないかなぁ。異世界来たら魔法使えちゃった! みたいなぁ……」


「そんなことあって良いの?」


「現にハナさん火魔法使えちゃってるしぃ……」


 そこへ遅れてサラがやってきた。


「そのくらい子供でも使えるぞ」


 呆れた顔で二人を見る。


「マイとタカユキは使えんのか? ポンコツじゃな」


 それを聞いた舞衣が、蔑んだ目で見るサラの胸ぐらを掴んで激しく揺さぶる。

 満面の笑みで……。


「私たちは他の世界から来たみたいなのよ。そんなもん知るわけないでしょ。ほら、早く教えなさいよ。黙ってないで何とか言いなさいよ」


 舞衣の激しい揺さぶりで、サラの首が前後に残像を残しながら揺れている。

 これでは喋れるわけがない。


「ま、舞衣ちゃん! それじゃサラちゃん喋れないよぉ」


 たまらず隆之が救助に入る。

 舌打ちしながら揺さぶるのを止める舞衣。

 しかし、胸ぐらの手は離さなかった。


「ほら、これで喋れるでしょ?」


「貴様……、いつかぶっ潰す!」


「今度は前後だけじゃなくて上下にも揺さぶろうか?」


 胸ぐらの手に力を込める舞衣。


「わ、わかった! 今日の所はこの辺で勘弁しといてやるわ!」


 今度は上下にも揺さぶり出した舞衣を隆之が必死に止める。


「舞衣ちゃん、ちゃんとお話し聞こうよぉ」


「そうね。これじゃ埒が明かないわね。ほら、早く魔法のこと話しなさいよ」


「貴様が揺さぶらなきゃとっくに話してたわ!」


 頭と首がちゃんとあるか手で触って確認しながら話すサラ。


「この世界で魔法を使うには、使いたい魔法のことを思えばいいんじゃ」


「思う? 思うだけで魔法使えんの?」


「そうじゃ。そこのご老人、名前は?」


「私は澤原花江と申します。ハナと呼んでくださいね。ちっちゃくて可愛らしいお嬢さんね」


「全然可愛げないけどね」


「黙れポンコツ女」


 慌てて舞衣を止める隆之。


「それでだな。ハナさんが火を使いたいと思ったことにより火魔法が発動した。大きくしようと思ったから大きな炎になった。つまり、具体的に思うことによって色んな魔法を使うことが出来るんじゃ」


 横目で舞衣を見ながら、さらに話を続けるサラ。


「何が出来るかはその人次第のとこはあるが、魔法の素となる力をこの世界から吸収する、その吸収する力の大きさによって魔法の強さが変わってくるんじゃ」


 ここまで話したところで、サラがハナさんの所へ近づいていく。


「ハナさんや。外に向かって思い切り大きな火を飛ばして見てくれんか? どのくらいの力があるのか見てみたいんじゃ」


「思い切り大きな火を飛ばすって思えばいいのね? やってみるわね」


 ハナさんが右手を窓の外に向けた。

 次の瞬間、大型タンカーほどの大きな炎が飛んでいった。


「こ、こんな大きな炎飛ばすヤツ、初めて見たわ……」


「わ、私は何を見てるのかしら……」


「スゴい……スゴいよハナさん!」


「これは、この人は間違いなくヒノモトブシじゃ! 妖精の国の救世主! 勇者様に間違いない!」


 【勇者ハナがパーティーに加わった】

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