第一話・異世界へようこそ!

 ある日、不思議な光に包まれて見知らぬ土地に降り立った老人ホーム陽光園。

 スタッフの舞衣と隆之は、そこで自称妖精と出会ったのであった。


「なるほど。つまり、貴様らはニホンとか言う国から、何か分からんが飛ばされてきたと?」


「そう言うことになるのかな?」


「まさか、あの話が本当にあった事とはな……」


 自称妖精はブツブツ言いながら考え込んでいた。

 そして、二人を見つめて話し出した。


「実はこんな話がいい伝えられてるんよ。これ見てみ」


 そう言って絵本らしきものを差し出した。


「なにこれ? 子供の絵本?」


「いいからとっとと読め!」


 そこには、天空より舞い降りたヒノモトブシと呼ばれる人物が活躍する物語が書かれていた。

 絵本に描かれていたのは、どう見ても侍だった。


「隆之くん……夢じゃなければ異世界確定ね……」


「そうなるのかなぁ……」


「そのヒノモトブシって貴様らの仲間か?」


「仲間とは言わないわね。私たちより随分前の時代の人たちね」


「仲間ではないが知っていると。じゃあ、この話は本当だったのか……」


 突然二人に頭を下げる自称妖精。


「頼む! 妖精の国を救ってくれ!」


「自称妖精が何か言ってるわよ」


「自称じゃなくて本物じゃ! それと! サラディール・グランドって立派な名前があるんじゃい!」


「名前長い。呼ぶの面倒だからサラって呼ぶわよ。私は舞衣」


「あっ、僕は隆之ですぅ」


「サラでいい。貴様がマイで坊やがタカユキやな」


「で、サラ。救ってくれってどう言うこと?」


 サラが絵本を指差しながら舞衣をみる。


「そこに大きな厄災って怪物が書かれとるじゃろ。それを退治してくれ」


 何を言ってるんだこのチンチクリンは。

 寝言は寝てから言えよ。

 そんな圧のかかった視線を送りながら絵本を叩きつけた舞衣。


「ふざんけんじゃないわよ! 健気な介護スタッフにそんな力有るわけないでしょ! しかも安月給だしね!」


「舞衣ちゃん……いまは安月給関係ないよぉ……」


「ヒノモトブシは何でも斬れるカタナと、魔法とニンジュツを使えて無敵だって書いてあったぞ。貴様らもヒノモトブシみたいなもんじゃろ?」


「ヒノモトブシじゃないわよ! 私たちは魔法も忍術も使えないし、刀なんて持ってたら即お縄だわ」


「マイ……貴様役立たずじゃな」


「二百年の人生終わらせてあげるわ……」


「舞衣ちゃん! 危ないからカッターしまってぇ!」


 涙目で逃げ回るサラ。

 舞衣を追いかける隆之。

 追い付いた隆之が興奮する舞衣から何とかカッターを取りあげる。


「はぁ、はぁ、カタナ持ってるじゃないか!」


「これはカッターよ! 武器じゃなくて文房具よ!」


「舞衣ちゃん、説得力ないよぉ」


 落ち着いたサラが突然土下座する。


「頼む! 妖精じゃ大きな厄災を倒せないんじゃ!」


「そう言われてもね。私たちじゃ無理だと思うよ」


「ごめんねぇサラちゃん。僕たちにそんな力は無いんだよぉ」


 ガックリと肩を落としながら立ち上がるサラ。


「そうか……貴様らはヒノモトブシでは無いんじゃな……」


「お役にたてなくてごめんねぇ」


 潤んだ瞳で舞衣と隆之を交互に見るサラ。


「もうひとつ頼みがあるんじゃが」


「聞くだけ聞いてあげるわよ。さぁ、言ってごらん」


 笑顔でカッターを握りしめる舞衣。


「家がなくなったんで貴様らのとこに住まわせてくれ」


「あっ、家……ね……」


「舞衣ちゃん、これは聞いてあげないと……」


「いいわ。私たちの責任じゃないけど、部屋は空いてるからどうぞ」


「本当か! マイ、感謝してやるから有りがたく思え」


「舞衣ちゃん! カッターしまって!」


 どうにか舞衣の怒りを治めてから施設へ歩き出す三人。

 その三人の目に飛び込んできたのは、施設二階にの窓から飛び出す炎だった。


「ちょっと! 燃えてるじゃない!」


「か、火事だよぉ〜」


 慌てて駆け出す舞衣と隆之。


「何を慌てとるんじゃろ?」


 のんびりと飛びながらサラがついて行く。

 

 二人は施設を守ることが出来るのか!

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