爺ちゃん婆ちゃんが勇者で何が悪い?〜老人ホームで勤務中に施設ごと異世界へ飛ばされましたが皆んな元気に冒険してます!〜
かいんでる
プロローグ
郊外の山中にある老人ホーム
定員二十名の小さな施設である。
ある日の静かな夕方。
それは起こった。
「お疲れさまでーす!」
「お疲れさまぁ。今日は
「そうだよー!
「うん。もう帰る時間だよぉ」
「じゃあ引き継ぎしちゃおっか」
「実家に帰ってる人とか多いから直ぐ終わるよぉ」
「何名在籍してるの?」
「残ってらっしゃるのは四名だねぇ」
隆之がそう言った時、施設が小刻みに震え出した。
「きゃっ! なに? なになに?」
「地震? いや、地震じゃないなぁ。周りの木は揺れてないよぉ」
「じゃあ何なのよ!」
「僕に分かる訳ないじゃないかぁ」
二人がパニックっていると、今度は窓の外が光り出す。
「何なのよもぉー! 宇宙人でも攻めてきたの?」
「そんな非現実的なことある訳ないじゃないかぁ」
すると、真っ白だった光が七色に光り出す。
それと同時に小刻みだった震えが激しい揺れに変わっていく。
「ちょっと! 隆之くん何とかしなさいよ!」
「無理言わないでよ〜。僕に何とか出来るわけないでしょ〜」
「男なんだから何とかしなさーい!」
「舞衣ちゃんいつも男女平等だって言ってるじゃないか〜」
「時と場合によるのよ!」
「理不尽だぁ〜……」
二人が何の解決にもならない掛け合いをし始めてから二分。
激しかった揺れが収まり、窓の外にあった光も消えていた。
「収まった……?」
「そうみたいだねぇ……」
「あっ! 入居者の安否確認!」
「ぼ、僕は二階見てくる〜!」
「お願い! わたしは一階確認するね!」
この施設は二階建てで、二階が居住スペースになっている。
「そうだ! テレビテレビ!」
舞衣がテレビのスイッチをいれる。
そこに映し出されたのは【電波を受信できません】であった。
「どう言うこと? 電波無いの? テレビ壊れたの?」
眉を八の字にしてテレビを睨むが、いくら睨んでもテレビは映らない。
「そうだ! スマホだ!」
ネット記事を見ようとスマホの画面をタップする。
開かれた画面には【インターネットに接続できません】と書かれていた。
「これって、結構ヤバい状況なんじゃない?」
「舞衣ちゃん! みんな無事だったよぉ」
「それは良かった。それは良かったんだけど、テレビは映らないし、ネットにも接続出来ないのよ」
「うそぉ! 何があったのぉ!」
「分かんないわよ! とりあえず、外の様子見てこようよ」
二人は正面玄関から外へ出た。
そして我が目を疑った。
「ここ……どこなの?」
「外国にありそうな草原に見えるんだけどぉ……」
施設のあった山の中ではなかった。
川が流れ、背の低い木々に囲まれた草原が目の前に広がっていた。
二人が呆然としていると、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
「貴様ら何やってくれてんだー!」
二人が振り向いた先に、青い妖精のコスプレ少女が立っていた。
小学一年生くらいに見える少女は、鬼の形相で二人を睨んでいた。
「誰に断ってこんなもん飛ばしてきやがった!」
「ずいぶん口の悪い子だなぁ」
「お嬢ちゃん、お家どこ? 何でこんな所にいるの?」
「ガキに喋るように話すなー!」
目から炎を発しながら、施設の後ろを指差しながら吠える。
「家はどこだと? 家はあそこだ! 家があんな目にあったからここに居るんだろーがー!」
指先に見えるのは、施設に踏み潰されたと思われる、元は家と呼ばれた物の残骸だった。
「え? あんなとこに家なんてあったかなぁ」
「なかったわよ」
「ずっと昔からあったわー! 貴様らのヘンテコな建物に破壊されたんじゃー! どう責任取ってくれるんじゃー!」
その後も罵詈雑言を浴びせかけるコスプレ少女を無視して隆之が話し出す。
「ねぇ舞衣ちゃん。この景色といい、無かったはずの家といい、ここってどこなの?」
「どういう事? あんたまさか、マンガみたいな事言い出すんじゃないでしょうね」
「だってぇ、何か变だよぉ」
「確かにちょっと変よね」
「ちょっと待てや貴様らー! なに無視してくれとんじゃー!」
「あぁ、ごめんね。お嬢ちゃんは危ないから早くお家に帰ろうね」
「この女ムカつくわー! さっきからお嬢ちゃんお嬢ちゃんって、二百年生きた妖精捕まえてお嬢ちゃんってなんじゃい!」
二人が寒々しい目で少女を見る。
「二百年生きたぁ……?」
「妖精……?」
「な、なんだその目は。妖精なんてこの世界じゃ珍しいもんじゃないだろうが」
二人が顔を見合わせる。
そんなバカなと思いつつ、本当だったらどうしようと言う顔で見つめ合う。
「お嬢ちゃん。妖精なんて物語の中だけなんだよ。本当にいる訳じゃないのよ?」
「この女訳の分からん事を……ここに居るだろーが!」
「お遊戯会の帰りかな? 妖精だったら飛んで帰れるね」
満面の笑みで話す舞衣の目の前で、少女が舞い上がった。
そして、舞衣と隆之のまわりを飛びながら叫んだ。
「飛べても家には帰れんのじゃ! さっき貴様らが破壊したと言うとるじゃろがー!」
「と、飛んでるよぉ……」
「うそっ……飛んでる……」
「なに不思議そうな顔しとんのじゃ」
「だ、だって、人は飛ばないよぉ」
「人じゃないわ! 妖精やって言うとるやろ!」
自称妖精は二人の前に降り立つと、施設と二人をジロジロと眺めはじめた。
「貴様ら、何処から来た?」
「何処からって、ずっと日本に居るわよ」
「ニホン……? 知らんな」
「舞衣ちゃん……やっぱり……」
「信じたくないけど、隆之くんの良く観るマンガに有りがちな……」
そして、二人の叫びがハモる。
「異世界来ちゃったのかもー!」
晴れ渡る青空を見上げると、見たこともない生物が飛んでいた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます