第2話

 目が覚める。


 感覚的には二度目の目覚めだ。


 その何とも不思議な感覚に、俺は夢の内容を思い出した。


 変な夢を見た。


 妄想のような夢。


 俺はそんな夢を見るほどに、欲求不満だったのかと恥ずかしくなり、起き上がろうそして異変に気付く。


 「背中、いってぇ」


 ベッドで寝ていたはずなのに、まるで床のような硬さに俺に繊細な身体が悲鳴を上げていた。


 起き上がり、自分が本当に床に転がっていたことを知り、ベッドから落ちたのかと思ったが、そのベッドが見当たらない。


 それどころかここは、俺の部屋ではなかった。


 冷たく堅い、大理石の床。


 俺の部屋の何倍も広い空間。


 そして、ひそひそと聞こえてくる無数の人間の話声。


 「は……?」


 俺は自分がどこか訳の分からない場所で起きたことを自覚した。


 拉致?


 そう考えたが拉致される理由など心当たりがまるでない。


 そして周囲から聞こえてくる声。


 そう小さな声ではない筈なのに、何を喋っているのか理解することが出来なかった。


 英語?


 しかし、聞き取れる単語は何一つなければ、これが英語でないこともなんとなく分かる。


 他の言語かと考え、そして周囲の人間が日本人でないことを知る。


 どう見てもアジア系の顔立ちではないのだ。


 「まさか、本当に……」


 思い出される夢の中の白い影の言葉。


 「俺は異世界召喚されたのか?」


 俺が言葉を発すると、急に周囲の人間が一斉に口を閉ざした。


 そしてざっと、周囲の人間の視線が俺から別一転に注がれた。


 そして響く鈴のような声。


 「──────────────」


 しかし、何を言っているのか俺にはまるで聞き取れない。


 理解できない。


 しかし、女性の声だという事は理解できた。


 これが本当に異世界転移なのだとしたら自動翻訳機能が働いていない、もしくは存在しないということになる。


 なんとも不便な展開だ。


 俺がそう感じた時、胸の熱に意識が行く。


 もしかして。


 俺は目を瞑り、その熱に集中すると、脳裏に何かが浮かび上がった。


 それは無限に広がる宇宙の星々のような点の数々とそれを結ぶ幾万の線。


 まるで空に描いた星座のような光景。


 これぞまさにスキルツリー。


 あいつの言う通りだった。


 俺はあいつに貰ったそのスキルの中心に意識を向ける。


 それが【翻訳】だと俺は直感した。


 俺はそれにエネルギーを注ぐように意識すると、それが点灯。


 スキルを得たのだと直感で理解した。


 「勇者様?どこかお加減が悪いのでしょうか?」


 その綺麗な声は、俺を心配してのものだと聞き取れた。


 「お、おぉう!マジか!これマジか!!」


 「ひゃぁ!」


 跳び上がった俺に女の子が驚いて飛び上がる。


 すると、周りにいた騎士のような恰好をした男たちが腰の剣に手を掛けるのが見えた。


 やっべ。


 「だ、大丈夫です!ただ驚いただけですから!」


 その女性は騎士たちをそう宥めると、再び俺の方を向いた。


 改めて彼女の顔を見る。


 金髪の長い艶やかな髪。


 長い睫毛を着飾った大きな瞳。


 鼻筋の通った高い細身な鼻は、彼女の横顔に理想的なEラインを形成するのに貢献していた。


 そして瑞々しい柔らかそうな、健康的で血色の良い唇の目が奪われる。


 まるでおとぎ話のお姫様よう。


 健気で儚く、守って上げたくなるような、可愛いらしいから美しいへと変貌を遂げる途中、そんな成長の狭間にいる年頃の少女が俺の目の前にいた。


 「き、綺麗だ……」


 「え……ぁ、うう。いきなりそんな……恥ずかしい、です」


 俺は思わずそんな言葉を口にしてしまい、目の前の少女が顔を赤らめた。


 「あっ、ご、ごめん!いきなり失礼なことを!」


 俺は初対面の女の子になんて軽薄な事を言ったのだろうと自分の発言を後悔した。


 「あの、ここは……?」


 俺は自分が今どんな状況に置かれているのかを知りたくなって、顔を赤らめる少女にそう聞いた。


 少女がこほんっ、と可愛く咳ばらいをし、表情を改めて俺に話してくれた。


 「ここはティーゼリア王国の首都ゼリア。その王城でございます。勇者様」


 「……勇者?」


 その言葉に、あの白い影が言っていた世界を救えという言葉を思い出す。


 本当に、俺は異世界に来てしまったのか。


 「はい。貴方様は神に選ばれ、勇者として召喚されました。どうか、そのお力でこの世界をお救いください」


 そう言い、その少女は俺の前で跪き、頭を垂れた。


 その行動に周囲の人間もざわつき始めた。


 俺なんかが、世界を救う勇者になる?


 そんな大逸れた自信なんて小市民な俺にある筈もない。


 しかし、目の前の少女の必死な懇願を前に俺は息を飲んだ。


 そして、あの白い影の言葉を思い出す。


 ────その力を思う存分異奮い世界をすくってみせるのだ!!


 その言葉を信じ、俺は彼女の言葉に力強く頷いた。


 「任せてくれ!」


 その言葉にその少女は安心したように微笑みを浮かべてくれた。


 俺は思わずその微笑に息を飲んだ。


 「安心しました」


 彼女がほっと胸を撫でおろす。


 その手が置かれた胸に自然と目が追従。


 俺はその光景に豊かな山脈を見た。


 でっか。


 「私はティリア・シース・ウィン・ティーゼリア。このティーゼリア王国の姫です」


 美少女で、山脈で、そしてお姫様。


 俺はあるところのはあるものだと感心した。


 天は一体このティリアに何物を与えたのだろうか。


 そりゃ気立ても良くなりますわ。


 「お、俺は明日ぬくい れん……よろしく」


 それが彼女と俺の馴れ初めだった。

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