❄️2🎅
僕とアキオの関係は、すごく簡単に言えば小学生の時の幼なじみ。
いろいろあって僕は一年前からアキオの家に居候中の身。
アキオは、飛行ソリに乗ってプレゼントを配る民間公認サンタクロース志望のフリーター……だったんだけど、冬季の試験に合格してめでたく春から新人サンタクロース。
だから今日は、アキオのサンタ合格パーティーをするために、二人で安くて美味しいお店巡りをしていた。近所の安い八百屋さん、スーパーを何軒かまわって、最後は行きつけのお肉屋さん——赤い看板が目じるしの『お肉のカバサワ』。
カラフルな値段ポップがずらっと貼られたガラス戸を開けると、カウンターの奥から「あらあらぁ、ユキちゃん。いらっしゃい」とお店のおばちゃん——樺沢さんが出てきた。気のせいかな、アキオを上からつま先まで見ながらニヤニヤしてる樺沢さんがコワイ。
「今日はカレと一緒?」
「ち、ちがいますっ! いつもの唐揚げ用の鶏ももと、あとステーキ用のお肉でおすすめのありますか?」
隣のアキオが尖り顔で僕を見た。そんな否定しなくてもいいだろって言われても、だって僕たちそういうんじゃないし。
「したらこのロールステーキどう? 杜宮牛で一本350円。ここらじゃウチが一番安いよ」
「350円かぁ……」
家のお財布を思い浮かべて心の中でため息をつく。
二人で一食700円。普段は月に一回、ここの特売鶏胸肉をやっと買えるぐらい。家計の収入がアキオ頼りの今、こんな贅沢なお肉を買ったら間違いなく今月は赤字まっしぐらだ。
だけど今日はアキオのお祝いだし、これぐらいなら僕の全財産(1,345円)でまかなえるハズだ。
お財布からお金を出そうとして、黙っていたアキオが突然「オバちゃん、それ頼むわ」と脇から五千円札を出した。
僕が「あっ」という間もなくお会計は済んじゃって「はぁーい、鶏もも300とロールステーキ二本ねぇ」と樺沢さんはささっとガラスケースからお肉を取り出しはじめてしまった。
「ねぇ、いいの?」
隣のアキオにヒソヒソ言うと、アキオは平然と「自分が食うんだから当たり前っしょ」と言ってのけた。
「分かってる? 君の分だけじゃないんだよ」
「同じ同じ。変わんねーって」
ウソばっかり。
たまに「ボーナス入った」って嘘ついて、自分の貯金を共通のお財布に入れてるの僕は知ってるんだ。
「はい、まいどありぃ」
お肉の入った袋を僕に手渡しながら、樺沢さんがふと僕の方に顔を近づけてきた。
「豚肉はオマケ。これで精つけさせて夜に、ねッ」
「樺沢さんっ!」
「アッハッハー! またいらっしゃいね」
耳が痛いぐらいの陽気な笑い声から逃げるように小走りで店を出た。
「元気だなぁ、オバチャン」
人の気も知らないで呑気にアキオが隣で言う。
でも、そりゃ勘違いしちゃうかもな。それぐらい僕がアキオに頼ってるんだから。っていうかコレ、よく考えたらオジサンのお金で生活してた時と変わらなくない? カラダの関係がないだけで、恋人でも家族でもないアキオに養ってもらってる。
あーあ……。
居候してるクセに今更こんな事に気づくなんて、前から一歩も進めてないんだなぁ、僕。それに比べてアキオは、夢を叶えてどんどん先に進んでる。
短気だけど、素直で真っ直ぐな愛を向けてくれる人。
僕の汚い生き方を全部知ってても、「好き」って言ってくれた人。
けれど、僕はまだアキオのその気持ちに答えを出せていない。
ううん、きっと答えを出すのがこわい。
近づいて変わることが、こわい。
アキオは太陽だから、きっとこの先もずっと輝き続ける。僕が救われたように、きっとこの先に出会う誰かの事も照らしていく。
でも僕はただの雪だ。みんなを凍えさせてやがて消えてしまう、何の役にも立たない雪。いつか太陽はそんな雪にうんざりして「いらない」って捨ててしまうんだろう。
だから、やっぱり僕たちは30センチぐらいでいい。
何も変わらなくて、居心地が良い関係のままで。
捨てられたって、傷つかない。
アキオにとっても、僕にとっても、きっとそれが一番良いことなんだ。
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