リモート

ねんど

会議

『すみません、遅くなりました』


私がログインすると、会議の他の3人がそれぞれかるく会釈した。

娘の迎えに行って、スーパーに行って、ご飯を食べさせて、同居人に娘を任せて、色々やってたらzoomミーティングを10分もすぎてた。

『ギリギリかもっていってたもんねぇ』

部長が粘っこくいう。

『ヤマモトさん大変なのに無理に出てもらって恐縮ですー』

河合ちゃんがとりなす。

『まだたいして進んでないですよ』

木村くんが言う。

『いやぁかたじけないです』

もう一度詫びた。


今晩ミーティングすることになったのは、週明けにプレゼンがあるからだ。現地に行く営業の河合ちゃんに、技術部から自社ソフトの詳細や、クライアントから突っ込まれそうなことなど、シュミレーションして共有する流れだった。


日中ばたつく河合ちゃんや部長と

今週、在宅でダブルワークしている私に合わせた結果、夜のミーティングになったわけだ。


背後の部屋から娘のぐずる声が聞こえる。


『ユカちゃんいくつになったの?』

音声を拾ったらしい部長が気を遣う。

『もうすぐ3歳です。イヤイヤの最中で。』

私が答えると他の2人も『わぁ』『もうそんなに』と相槌を打つ。

『うち、もうすぐ5歳ですけど3歳超えたらちょっとは話が通じるようになりますよ』木村くんはパパとしては先輩だ。


ミーティングはスムーズだった。

営業の河合ちゃんが細かくクライアントの説明をして、作成したうちの製品のパンフを共有した。

さらに、どう売り込みたいか方針を説明、部長が補足しながら、クライアントからツッコミが入りそうな部分をピックアップし。私と木村くんがそれに応えつつ、会議が進む。


1時間くらいしたところだろうか、スピーカーから甲子園のようなサイレンが鳴った。


『ウチの区、組のゆみあげだわ』

部長がら立ち上がった。

『ごめん、ちょっと行ってきていい?』

河合さんと木村くんがそれぞれ

『どうぞ』『行ってらっしゃい』という。

『部長のとこの区は早いんですね』

『うちらは同じ時間だもんね』

『夜中にでて行くのちょっと大変だよね』

アハハハと2人がわらった。


背後で娘が泣いている。


『ヤマモトさんとこは何時に始まるんですか』

そしてPCのスピーカーからもう一度、長いサイレンが鳴った。

『うちらも呼ばれた』

『すみません行きます』


『あ、いいけど、なに』

『ゆ み あ げ。C教とシュウゴウしたから』

『え。うん?いってらっしゃい…』


河合ちゃんも木村くんもいなくなってしまった。

zoom画面には、もう誰もいない 無人の3マスが映っている。


いつのまにか娘の声が聞こえなくなっていた。

もう寝たんだろうか。


ふと外から長いサイレンが聞こえた。


プッという音と共に画面が切り替わった。

PCがインカメラになり、モニターに私の姿が映った。

背後のカーテンは開いていた。窓の外に赤い大きななにかがいた。

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リモート ねんど @nendo0123

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