お米を炊こう!7

 水を吸った米を土鍋に移すと、水の量を計る。きっちりと計測して鍋に入れると、コンロの上へ。

「始めは中火らしい」

「『はじめちょろちょろ中パッパ』っていいますもんね」

「……そうなの?」

 現代っ子の歩は、桜子さんの言っていることをあまり知らなかった。桜子さんは化け犬とは聞いているが、一体いくつなのだろう。気にはなったが、年齢を聞くのも失礼だろう。コンロを点火させると、沸騰するまで待つ。しかし、どうしたものだろうか。

「これ、鍋の蓋してたら沸騰したかわからなくない?」

「あ! それなら私がお役に立てますよ! お湯が沸く音を聞いていればいいんです」

「お湯が沸く音?」

 やかんならわかる。ピーッと鳴いてくれるので気がつく。だが、土鍋の場合はしっかりとそばについて沸騰する音を聞かなくてはいけないのか。なかなか難儀である。

「中火でどのくらいしたら沸くかなぁ」

「気長に待ちましょうよ。おいしいご飯ができるんですから」

 気長にとは言われるが、さすがに空腹だ。入学式が終わってから何も食べていない。こんなことなら、軽くブランチでも食べておけばよかったと後悔する。そんなことをぼけーっと考えているうちに、グツグツと音が聞こえてきた。

「歩さん、沸騰しましたよ」

「ここから弱火で12分くらいだって。『はじめちょろちょろ中パッパ』の意味って、コンロの火加減じゃないの?」

「昔と現代は違うのかしら……」

 桜子さんが不思議そうにする。言われてみると、本に載っている方法だと中火から弱火にするようになっているのだが、それだと『はじめちょろちょろ中パッパ』にはならない。

 少し疑問に思いながら、土鍋の様子を見ていると、縁のほうに出ていた水分がぐつぐつと音を立てている。吹きこぼれないように見ておくことも大事だ。本を読み進めると、最後のところに目が行った。

「あー、最後強火にするみたい。中パッパってこれかな」

「なるほど〜」

 ふたりが納得すると、湯気が上がってくる。春とは言え、まだ空気が冷たい証拠でもあろう。蒸気が息をふた呼吸ほど。歩は強火にした。『土鍋の飯炊き』、これでラストスパートだ。

「これで……できあがり?」

「まだまだだよ、桜子さん。次は『蒸す』という作業があるらしい」

 厚手の布巾を台に敷くと、火を止めてその上に土鍋を移動させる。本によると、このまま十分程度蒸らしをするらしい。

「土鍋のご飯って、おこげとかもできてますかね?」

「どうだろうね? 開けてみてのお楽しみじゃない?」

 わくわくしながら土鍋の蒸らしをするふたり。空腹も混じって、きっと格別のご飯になるだろう。だが、普通の炊飯器で炊いた米と、このやり方で炊いた米の『旨味』というのはどう違うのだろうか? 歩は気になってしまった。

「ご飯を炊くのも難しいな……」

「ここまでできたじゃないですか。あとは食べるだけですよ?」

 不思議そうにする桜子さんに、歩は言った。

「いや……ここまでやったらもう立派な『米道』だよ。『武道』とか『茶道』とか『書道』ならぬ、『米道』ーーあ、『飯道』のほうがいい?」

「歩さんって、面白い方ですね!」

 謎に桜子さんに褒められた歩は、少し照れた。

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