お米を炊こう!3

「だけど、特任教授って一体何をするんですか?」

 矢田教授と桜子さんに向かって質問すると、ふたりは歩に向き合った。

「君の論述の通りのことだ。『大学の食育と食による親善』について研究してほしい。言いだしっぺは君だ」

「えぇっ!?」

 大学って、アグレッシブすぎないか……? 驚く歩に矢田教授とそばにいる桜子さんは畳み掛ける。

「そういうわけだが、今から一応体裁上教授職として面接はしなくてはならなくてね」

「一応、先生ですから!」

 桜子さんは簡単に『先生』と言ってのけたが、本当に十八の自分なんかに務まるだろうか……。だけど、面接に受からないと特任教授にはなれないらしい。突然の面接。何を聞かれるんだろう。もう引き受けると言った手前、断れないだろう。大学の入試のときに面接がなかった代わりに今試験されているような気がする。

「落ちたら、入学取り消しとか……」

「それはないです! 体裁上ですから」

「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」

 歩はおどおどしているが、ふたりは安心するように言った。

「まぁ雑談だと思ってくれ。まぁ高校生の時の部活とかの話だよ。放課後は何をして過ごしていた?」

 放課後の過ごし方の話というのも、矢田教授の研究内容と関係しているのだろうか。教授は社会学部と言っていたし。高校の時のことを思い出す。

 歩は奨学金で大学に通おうとしていたので、放課後は基本的に部活とバイトをしていた。部活は特段やりたいこともなかったのだが、奨学金をもらうためには課外活動の成績も残さないといけなかったため、かなり大変ではあったが両立させていたのだ。

「放課後は基本的にコンビニでバイトしていました。大学に行ったら返済に当てようと思って。部活は広告研究部に居ましたね」

「へぇ、今の高校はそんな部活があるんですね。どんなことをするんですか?」

 桜子さんが興味津々と言った様子でくりくりの目を輝かせる。それでも歩はマイペースに淡々と話した。

「統計とかデータ分析をしたり、キャッチコピーやデザインを考えたり……ですね。一応キャッチコピー

の賞で受賞経験もあります」

「ほう……。君は教育学部だけど、社会学部で勉強するようなことも部活で行っていたんだな」

「はぁ」

 なんだかよくわからないけど、広告研究部であったことは褒められたのか? 歩はあまり理解せずに笑った。

「広告研究って教育とは何も関係なさそうですけどね。まぁバイトと両立できそうなのがこういうのしかなくて……スポーツ系や吹奏楽はお金が掛かりそうだったから」

 スポーツだとユニフォームだのなんだのと揃えなくてはならないし、吹奏楽は楽器の購入が必須だ。そうなると奨学金プラスアルファが必要になってくる。そんな金があったら、大学進学費用に回してただろう。

「でも実績を出しているんですから、すごいことですよ」

 桜子さんが謙遜する歩をフォローする。それを見ていた矢田教授は、うんうんとうなずく。が、実際のところ歩は教育学と広告研究とはまったくの別物だと思っていた。なぜ教育学部を志望したのかーー。『教職なら食いっぱぐれないだろう』という考えからだったのだ。夢とか希望とか関係なく、必要としたのは『安定』だった。

「統計もやったのなら、コンビニのバイトでも何か効果はあったのか?」

 今度は桜子さんではなく、矢田教授がきらきらの笑顔を向ける。なんだ、この人と犬は。よくわからないけれど、歩はかなりの期待を向けられているーーそう感じた。

「コンビニのバイトはまだ商品管理とかはさせてもらなくて。でも、アドバイスとかはしていましたね。どの商品が売れそうだとか。でもそれっていわゆる『流行りものは高校生に聞け』の延長だと思っていました」

 相変わらず淡々と答える。歩はあまり自分のやっている仕事に興味がなく、ただ必要に応じて自分の力を発揮し、対価をもらっていた。本人はそれだけだった。

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