ノリで学年の女子全員に告白した結果、悪魔のような女の奴隷になり俺の人生が終了した

第3話 アンタの時間、全部よこしなさい

「――私に理想の彼氏を作りなさい」

「は……？」

「えぇ!? かなっぴぃ!?」

「佳奈、マジ意味わかんねぇって」

　その場にいる全員が驚いたり、首を傾げたり、各々の反応をしている。

　共通して感じているのは『こいつは何を言っているのだろう』ということだ。

＊

　謎の命令があったその日の放課後、俺はまた佳奈に体育館裏に呼び出された。

　美少女に呼び出しを喰らうなんて、全国の男子高校生からしたら羨ましくてたまらないだろう。

　しかし、俺は非常に憂鬱な気分でいっぱいだ。誰か代わってくれ。

　健介も大樹も薄情な奴らだ。

　部活だ用事だなんだ言って、俺を一人にしやがった。クソ……。

　体育館裏に着くと、腕を組み佳奈が仁王立ちで佇んでいた。

「お、お待たせ。すまんちょっと遅れた」

「本当よ。奴隷のくせに私を待たせるなんて舐めてる」

「ごめんって。で、なんで俺は呼び出されたんだ？ 告白ってわけでもないだろうし」

「はぁ？ きも。誰がアンタに告白なんてするわけ？ 本当ドーテーって妄想激しいんだから」

「そ、そこまで言わなくても……」

　相変わらず口が悪い女子だ。

　口さえ開かなければ、クールビューティーでどこか切なさも感じる美少女として、もっと男子人気が出るだろうに。

　まぁ中身を知らない男子からはすでに人気だが。

「アンタにはこれから私の恋愛を手伝ってもらうわ」

「恋愛って……」

「高校1年生が終わるまでの間に、私が彼氏を作るために全てを捧げなさい！」

「彼氏って言われてもだな……」

「それもただの彼氏じゃないわ。私が理想と思う彼氏をね」

　終始コイツの言っていることはわけがわからなくて頭が痛くなる。

　どうしたものか。とりあえず従っておくべきか？

「断ろうものなら、アンタの高校生活がどうなるかわかるわよね？」

「いや、断らねぇよ……」

　というか、もうこの状況じゃ断るのは悪手だし、なんだそのヤクザみたいな脅し方。

「じゃあまずは私の理想の彼氏像を伝えるから、ちゃんとメモしなさいね」

　そう言うと佳奈はつらつらと自分の理想の彼氏について語り始めた。

「かっこよくて優しくて、いざという時に頼りになって、コミュ力が高くて、尊敬できて、私の人生を変えるような人」

　なんだその抽象的な条件。

　どうやってそんなやつ見つけてこいと言うんだ。

「あ、あとは」

「あとはなんだよ」

「約束を守れる人、かな」

「な、なんだよ意外と普通だな……」

「悪い？ 文句でもあんの？」

「いや別にねぇけど」

　何か言うといちいち突っかかってるなこいつは本当に。何かストレスでも溜まってるのか？ 甘いもの食べなさい甘いもの。

　まぁいい。奴隷っていうくらいだからもっと過酷な条件でも提示されるのかと思ったけど、案外乗り越えられそうだ。

　しかも高校一年生が終わるまでの期限付きだ。

　さっさと乗り切って――。

　いや、待てよ……？

　恋愛を手伝うってことはもしかしたら佳奈の弱みを握れる可能性があるということじゃねぇのか？

　コイツの弱みを握って、いつかこの茶番をひっくり返せるんじゃねぇか？

「ふっ、ふふっ……」

「何アンタニヤけてんの？ マジで気持ち悪いわよ」

「う、うるさい！ なんでもねぇ。とりあえずその理想の男子とやらを見つけて、俺がキューピッドになればいいって話だよな」

「そう。急に物分かりがいいわね」

　鶴島 佳奈。俺をただの冴えない凡人だと思ってちょっかいかけたことを後悔させてやるよ。

　絶対にお前の思い通りにはさせない。

　あまり俺を見縊るなよ。

「とりあえずやってみる。そんなすぐにできるもんじゃねぇと思うから、期待しすぎんなよ」

「何よ、奴隷のくせに偉そうに」

　ここは従順になったと思わせておくのが得策だ。

　お前は気づいていないだろうが実は俺には秘策がある。

　なぁ鶴島。俺がなぜ、学年の女子全員に告白できたかわかるか？

　どこからそんな連絡先を手に入れ、計画を実行したのか。

　お前が気づく頃にはお前も終わりだ。

「ククク……」

「何アンタ、きも……」

　どんだけスクールカーストが高かろうが、どれだけ美少女で人気ものだろうが、たかが一人の女子高生だ。

　俺が逆転劇を見せてやるよ。

「ということで、明日から鶴島の理想の彼氏作りを頑張って手伝うから、今日のところは帰るわ」

　ここは笑顔笑顔っと。

　今のうちに服従したと思わせておいて、一気に大逆転だ。

　計画通り、計画……通り……！

「あ、ちょっと待ちなさい」

「え、あ、あぁ。どうした？」

　何か言い忘れたことでもあったのだろうか。

　まぁ良い。どうせいつか俺が大逆転をするのだから、今は基本的にはなんでもいうことを聞いてやろう。

　彼氏作りだろうと、宿題の代行だろうと、パシリだろうと、なんでもやってやる。

　高校一年生が終わる頃、笑っているのはこの俺だ。

「はい。これ」

「は？」

　急に渡されたのは、カードキー。

　鍵の代わりにセキュリティ対策で、ホテルやオフィスで使われるようなやつだ。

　もしくは高級マンションのエントランスに使われるような。

　高級マンションのエントラスに――。

　その刹那、俺の脳裏に一つの絶望的な可能性が浮かび上がった。

　これは……まさか……。

「アンタ、明日からウチで働いてもらうから」

「………」

　沈黙。

　5秒は続いただろうか。

　佳奈の言葉が理解できない。いや、理解を拒んでいるのかもしれない。

「ウチ……？」

「そう、ウチ」

「お家？ ウチ？ ん？ え？」

　突然の状況に戸惑いを隠せない。

　思わず固唾を飲み、佳奈を見つめた。

「何よ。だから奴隷って言ってるでしょ。学校でも、もちろん放課後も、休日も」

「……は？」

「甘っちょろいわね、アンタ。まさか奴隷の仕事が一つとでも思ったわけ？」

「嘘だろ……」

　とっくに俺の心はこの場に存在していなかった。

　今後の高校生活の行末を想像し、表現し難い絶望感に支配されていた。

「わかってると思うけど――」

　そう、とっくに俺に拒否権はない……らしい。

　こうして、本格的に地獄のような俺の高校生活がスタートした。