第4話 龍の姫
「………………流石に死んだかしら?」
粉塵と黒煙を放つ焦土化した大地に、空から一人の生徒が舞い降りる。
鮮やか赤髪、整った顔立ち。
磨き上げた紅玉のような美しい大角、天上の衣装と錯覚するような背の鱗翼、そしてゆらりと揺れる長い尾。
いわゆる『龍』の特徴を持った容姿。
世界的に有名な『
彼女が試合場で行ったことは単純だ。
自分の魔力を練り、火炎を上空から地上に落としただけ。
たったそれだけで試合場は更地となった。
「Bランクの実力はあった学生を纏めて一撃かよ」
「流石は『龍の姫』メテオラ F ドラゴニアってところか………!」
「なんかアイツらめっちゃ言い争いしてなかった?」
試合場では仮想結界と呼ばれるフィールドが展開されている。
試合が終了すれば、戦闘での死亡やダメージがなくなる効力があるため、気遣いなく暴れることができるのだ。
加減する必要が無いとはいえ、最上位の幻想と呼ばれる龍の力の片鱗を目撃した観戦席からは感嘆の声が上がる。
この威力の攻撃を人間が出すならば、熟練の魔術師でもそれなりの準備が必要だ。
だというのに目の前の竜少女は息切れすら起こしていない。
「すげーけど、なんか変だぞ?」
今回の戦闘形式は『
先ほど放たれた最上級の火炎魔術の一撃が決まっているのならば勝負は決着している。メテオラと呼ばれた生徒を除く全員の戦闘不能、つまり彼女の一人勝ちという事になる。
だが、メテオラは未だに何かを待つように試合場に立っている。
「そろそろ出てこないと、もう一度撃ち込みますわよ」
「………止めろ、マジでやめてください」
どうやら死んだフリは通用しなかったようだ。
もこもこと焼けた地面が隆起させ、地面から這い出すことにする。
ゾンビみたいな光景に観戦席から悲鳴が上がる。
「詠坂レンジの奴、生きてたのか」
「すげー、あの一瞬で地面に潜ったのか」
「なんで試合場全体吹っ飛ばされて生きてるんですかね」
「ゾンビかよ………」
「蝉の幼虫だろ」
「生き汚いが、それはそれとして凄い」
「泥臭すぎる」
「さすが序列0位」
「さすゼロ」
立ち上がって汚れを払い、盾を構える俺を見て、メテオラが頬を綻ばせる。
「相変わらず、丈夫ですわね」
「滅茶苦茶に不本意だけど、頑丈なのが取り柄だからな」
「さすがは学園トップの魔力量ですわね?」
世界を壊滅に追い込んだ七つの転生特典。
誰もがよく知る転生能力が一つ。
その力の一つが『
このチートの特性はきわめて単純。
人の枠組みを遥かに超える膨大なエネルギーを保持すること。つまり尋常じゃない魔力量こそがそのもの。
なんか地味だと侮るなかれ。
あらゆるファンタジーにおいて魔法魔術の源泉と目されるエネルギー。それを後先考えなく使い放題というのだから、常識的に考えて弱いわけがない。
溢れ続ける潤沢な魔力によって肉体を強化すれば、常人を遥かに超える耐久力と膂力を得られる。多少の傷は秒で治るし、隕石が直撃しても致命傷にならない。
ほぼ不眠不休で活動できるうえに、泥水啜ってもお腹を壊さないで栄養に変えられるほど狂人にもなれる。
世界連盟との戦いでも一役買ってくれたのがこのスキルだ。こと戦闘と生存においてこれほど心強い転生特典は存在しないと思っている。
あと普通に使ってる分には、魔力が多いだけにしか見えないので転生者だとわからないのも高得点だ。
シンプルで一番使いやすい。
というより、
「平地では攻撃範囲外へ逃げきれないと判断、即座に地面に潜行、あとは盾と魔力で防御を固める。結果、ダメージは最小限に抑え込む______流石ですわね」
「お嬢様にはビックリの荒業だろ?」
「初見とは思えない回避方法ではありましたわ」
「昔似たような攻撃を受けたことがあったんだな、これが」
あの時は隕石だったけど、と話す少年を見て龍少女が笑みを浮かべる。
値段の付けられない宝物を見つけた時のような、あるいは獲物を定めた捕食者のような獰猛な笑みだ。
「やはり貴方は私の物になるべきですわね」
「.........その話は前にも断った気がするんだけど」
「その大量の魔力! 逆境でなお足掻く生への執着! 龍人種の誘いを断る不遜! 不敬! 高慢!! 全てが好みですわ!」
「ねえ! 話を聞いて欲しいんだけど!!」
メテオラが頬を紅潮させ、身を震わせる。
学園に入学して以来、目の前のドラゴン女に言い寄られているのだ。
自分の下僕にならないか、と。
なんでも魔力の質と量が好みなのだとか。
人間ではありえないレベルの魔力量らしく、メテオラからすれば道端に宝石が転がっていたような感覚なのだろう。
事あるごとに金と権力と暴力でモノにしてこようとするので困っている。
クルクルと喉を鳴らし、尾を撓らせる相手に距離を取る。
このまま逃げたいのだが、相手は最強の龍人種。
基本的に逃げるのは不可能だ。
「______まずは躾けからですわね?」
瞬時に距離を詰めたメテオラに、地面に引き倒される。
「ぐおっ!?」
叩きつけられた地面が砕けて大地が揺れる。
龍という人を超越した種の力が振るわれたことを理解する。
倒される瞬間、ギリギリで盾を間に挟み込むことに成功するが、盾ごと地面に組み伏せられる。
メリメリと掛けられる圧力に盾が軋む。
動けないのをいいことに、竜尾が別個の生き物のようにしゅるりと足に巻き付く。
ヤバい。
頬を上気させ、赤い竜は妖しく舌なめずりをした。
「全力で足掻いてくださいな? その方が燃えますもの」
そもそも龍とは、世界の意志を代行する者。
この世で最も完成された生物であり、その威力は天災と同格であり、「種族として最強」とまで称される存在である。
「ぐ、オラァァアアアア!」
「あら」
一瞬の隙を突き、メテオラを力尽くでひっくり返して、馬乗りになるようにして抑え込む。
一瞬だけ良い匂いがするとか、めっちゃ身体がやわらかいとか、浮ついた思考が過ぎるが、それどころではない。
まだ学生とはいえ、コイツは世界大戦時の英雄レベルのバケモノである。
「ふふ、強引ですのね?」
「【最強種】相手には流石に手加減できないだけなんだよなぁ!」
魔力による身体強化の原則はざっくり言うと『肉体の質』×『魔力操作技術』×『魔力の量』=『身体強化のパワー』だ。
俺は身体は凡人、魔力操作も凡人なので、アホみたいに多い魔力をぶち込んで、ドラゴンと渡り合えるほどの身体を強化しているわけだ。
とはいえ、相手は
人間の身体機能と魔力量を遥かに超える超生物である。
ぎりぎりと、拘束がほどかれ始める。
「ちょ、力つよ………!?」
「ゲームをしましょうか、私が勝てば貴方は下僕に。ありえませんが、万が一私が負ければ、富、名誉、そして肉体の全てを生涯貴方に捧げますわ」
「急に闇のゲーム始めないでもらえます!?」
ドラゴンの倫理観ってどうなってるんだ。気軽に人生を掛けるんじゃない。種族柄なのか、自尊心が高すぎて自分の勝利を疑わなさすぎる。
だが、この女はやるといったら問答無用でやる女だ。
そしてそろそろ抑えきれなくなってきた。メテオラが振りほどいた勢いで、吹っ飛ばされる。
「それでは、戯れましょう?」
「ほんとしょうがないヤツだなお前………」
メテオラが好きかって言っているが、当然こんなゲームは成立しない。とはいえ普通に授業なので成績が掛かっている。
何もせず負けるわけにはいかない。
魔力を身体に巡らせ、そのまま相棒の盾を構える。
一人は欲望のままに、もう一人は単位のために。
龍と転生者はぶつかり合った。
―――
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