第3話 学園都市【天地】
極東の地。
開かれた天の空と、地に満ちる水の狭間。
学園都市『天地』は、日本の大湖に浮かぶ
魔術と科学の粋によって生み出されたとの触れ込みであり、当たり前だが前世の日本では存在しなかった場所である。
「あらゆる才能が集う」とまで言われるこの都市は、世界的にも注目されている最新鋭の教育機関であり、ビル群が立ち並ぶほどのその発展は目覚ましいの一言に尽きる。
聞けば国内最新鋭の技術の大半が、この学園都市で生み出されているとか。
だが、そんなものは些細なことに過ぎない。
この学園の本質、最大の特色はもっと単純だ。
『戦え、強さを求めろ』
ここは学術兼戦闘技能養成学園「天地」。
古今東西、科学魔術、異常超常を問わず才能の原石を集めて競い合わせる、武闘派かつ超実戦派のイカれた育成機関である。
そして現在、転生者の俺が通っている学園でもある。
***
この学園において、生徒同士が戦うことは珍しくない。
というか日常茶飯事である。なんなら修練・研鑽の一部として推奨までされているし、手順さえ踏めば決闘さえも認められている始末だ。
前世日本の倫理も道徳も形無しである。
プライベートすらそんな調子なのだから、当たり前のように授業も戦闘関連のものがある。
例えば月に一度、生徒の成績に反映される『
銃が火を噴く、魔術の詠唱が響く、魔剣が振るわれる。
撃ちだされた鉄の礫が、炎の槍が、風の刃が
生半可な威力の攻撃はない。
一つ一つが「敵を討つ」という意志のもとに、吐き出された殺意の形だ。
______そして、敵というのは俺の事である。
「うぉぉぉおおおお!?」
自前の
ゴリゴリと盾が削れる恐ろしい音が鳴っているのに気付いて、背中に冷や汗が流れる。
魔力を通して盾を補強をしているのにこの威力。
撃ちだされた攻撃そのものが、この学園の生徒の実力の高さを証明している。
常人なら細切れ案件の攻撃を防いだ俺に、試合場の観客席が湧くが当事者はそれどころではない。
穴だらけになった地面を見ながら、俺を狙った生徒十数人に抗議の声を上げる。
いま全員で俺を狙ったよね?
「............おい! 一人狙いはズルくないか!? 折角の大乱闘だ! フェアに行こうぜ!」
『
その視点で言うなら、一人狙いは禁止はされていないが、良いとは言えない手段である。
そんな風に一般論で説得を試みるが、対戦相手はそんなつもりはないようだ。
「害悪戦法使いがフェア精神を語るんじゃねぇ!」
「テメェ最後に残すと面倒臭いんだよ!」
「ガン盾決め込みやがって! 亀かテメーは!?」
「毒まで投げてきやがって!」
「逃げ足もはえーしよォ!」
「その硬さで引き撃ちしてる奴を生かす理由なんざねェ!!」
「死ねェェエエエエエエ!」
酷い言われようだった。
いや確かに盾で身を守り、タゲが外れた瞬間に投石投げたり、毒撒いたりしてチクチク攻撃し、狙われ始めたら逃げ回るのが俺の戦法だが。
この一年間で、幾度となく俺に沈められてきた奴らだろう。
揃って中指を立ててきている辺り面構えが違うどころか、青筋浮かびまくりのブチ切れ状態である。
同士討ちは期待できなさそうだ。
まあ俺自身ちょっとどうかと思う戦術ではある。
ただ、一年前の戦争を経験したら身を守る盾くらいは持ちたくもなる。
なにせ戦った相手は、人類最高峰の【英雄】クラスの人間達である。
そんな奴らから生き残ることを考え、防御と回避と安全圏からの攻撃を突き詰めたらこの戦法になっちゃったのだ。仕方ないと思う反面、対戦相手には少し申し訳ないとは思っている。
「非モテ!」
「陰キャ!」
「根暗!」
「童貞!」
「よーし戦争だお前ら! 全員床ペロさせてやる!」
ビックリした。
今ので良心の呵責とか罪悪感とか、全部吹っ飛んだわ。
「詠坂レンジ! テメーを叩いて学園の秩序を取り戻すぜ!」
「復讐するは我にありィィぃイイイイイイイ!!」
相手の攻撃に備え盾を構える。
お互いに戦意は十分、あとは仁義なき戦いがあるだけだ。
「うるせぇうるせぇ! 勝ちたかったら嫌な行動ばっかとれってママに教わらなかったか!? 来いよ優等生共! 道徳なんか捨ててかかってこい!!」
「「「野郎ぶっ殺してやらァァァアアアアアアアアア!!」」」
魔力がうねる。
一方が追い、一方が逃げ回る。
ガン盾引き撃ちVS袋叩きの見苦しすぎる戦火が切って落とされる_______その瞬間だった。
『______瞬き 紅蓮 この世の終始 真なる祝言は我らのもとに』
莫大な魔力の脈動と共に、宙から太陽が墜ちてきた。
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