第2章 第5話:「月夜の誓い」

月明かりが柔らかく店内を照らし、星空カフェの空間に一層の静けさが漂っていた。今日も彩花はカウンター席に座り、ノートを広げていたが、心がどこか落ち着かない。最近、少しずつ奇跡のような出来事が増えてきたせいか、その「何か」が何なのか、はっきりと知りたくなってきていた。


その時、隣の席から声が聞こえた。


「月がきれいですね。」

いつも静かな男性が、ふと空を見上げてつぶやいた。彼の名前は尚人(なおと)。星空カフェに通い始めてから知り合った人物で、静かな雰囲気がとても心地よい。


「はい、本当に。あの光がここに届く感じが、何とも言えず落ち着きます。」

彩花は軽く答えながら、月を見上げた。まだ新月に近い月が、静かに輝いている。その光は、まるでこの場所に何かを語りかけているようだった。


「あなたが言っていた通り、何か不思議なことが起こる場所ですね。」

彩花が話を切り出すと、尚人は少し驚いたように顔を上げた。


「僕も最初は半信半疑でしたけど、今では毎回来るたびに何かが変わっていくのを感じます。」

彼の言葉に、彩花は興味深そうに耳を傾けた。


「たとえば?」

「例えば、僕の仕事が少しずつうまくいき始めたこと。何気ない一言が、後々大きなチャンスに繋がったり。」


「それ、すごいですね。」

「そうですね。もちろん、すべてがカフェのおかげだとは言いませんが、ここに来て心が軽くなるからこそ、良いアイデアも生まれるのかもしれません。」

尚人は静かにそう言い、優しく微笑んだ。


その時、店主が静かに歩み寄り、カウンター越しに声をかけた。

「お二人とも、今夜の特別なブレンドをお出ししますね。星の光を感じていただければと思って。」


店主が差し出したカップは、いつものものとは少し違った香りが漂っている。星空のように深い、少し甘い香りがカフェ全体に広がった。


「これが、月の夜にぴったりなブレンドです。」

店主の言葉を受けて、彩花はカップを手に取り、ひと口飲んでみた。温かく、ふわりと心が軽くなる味わいだった。


「不思議なことが、ここで本当に起きているんですね。」

彩花はつぶやくように言い、月を見上げた。その光が、まるで自分の中に何か新しい力を与えてくれるような気がした。


「もし、これが奇跡なら……」

彩花は心の中で、静かに誓った。月明かりの下で、これからも自分らしく輝き続けることを。


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