第2章 第4話:「聞こえた音」
星空カフェに通うようになってから、彩花は少しずつその空間に馴染んでいった。店内の静かな雰囲気、優しい店主の笑顔、そして何よりも、星空ブレンドの香りが心地よかった。
その日もカウンター席に座り、仕事のアイデアをノートに書き留めていた彩花は、ふと不思議な音に気づいた。
カフェの静けさを支配していたのは、軽やかなジャズの音楽だけだったが、その音の合間に、かすかな「カラン」と金属が触れ合う音が聞こえた。初めは気のせいかと思ったが、何度も続けて耳に入ってくる。
「あれ、今のは何だろう?」
彩花は周りを見渡し、店内に目を凝らした。しかし、特に変わった様子はない。店主がカウンターの向こう側で何かをしているようだが、それが原因だとは思えない。
「失礼、音が気になったんですが……」
彩花は思わず声をかけてしまった。
店主は軽く笑いながら振り向き、肩をすくめた。
「それは、実はカフェの秘密の一部です。」
「秘密?」
「ええ、時々、このカフェには“音”が現れるんです。」
その言葉に、彩花は驚きながらも興味を引かれた。店主は少しだけ神秘的な表情を浮かべながら続けた。
「音の正体は、誰にもわからないんですよ。でも、あれが聞こえるときには、何かしらの変化が起こることが多いんです。」
「変化?」
「はい。人々の心が少しだけ動いたとき、思いがけないタイミングで何かが起こるんです。小さな奇跡のようなものかもしれませんね。」
その言葉を聞いた彩花は、少しだけ心が踊った。星空カフェがただのカフェではなく、何か特別な力を持っていることを確信した瞬間だった。
「私はまだ、何も感じていませんが……」
「それも大丈夫です。お客様にはそれぞれのタイミングがありますから。」
店主は微笑みながら、静かに言った。
彩花はその言葉に静かに頷き、再び目を閉じて耳をすませた。すると、再びあの「カラン」とした音が聞こえ、心がふわりと軽くなるのを感じた。
何かが始まる予感が、ゆっくりと心の中に広がっていった。
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